民法改正

民法(相続法)改正|配偶者短期居住権

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
配偶者短期居住権の解説
Pocket

配偶者は、遺産分割が終了するまでの間、自宅に無償で居住し続けることができる

配偶者が、被相続人が所有する建物に無償で住んでいたときは、遺産分割が終了するときまで、居住建物を無償で使用できる。

  1. 要 件
    配偶者が、相続開始時に、被相続人の所有していた居住建物に無償で住んでいたこと。
  2. 効 果
    配偶者は、相続開始後、配偶者短期居住権が存続している間、居住建物を無償で使用することができる。
  3. 存続期間
    ◇ 配偶者が、居住建物の遺産分割協議に参加する場合
    ⇒ 相続開始から遺産分割協議が終了するまで、または相続開始から6ヶ月間経過するまでのいずれか遅い日まで
    ◇ 遺言により配偶者以外の者が居住建物を取得する場合
    ⇒ 居住建物の所有権を取得した者が、配偶者に対して配偶者短期居住権の消滅を請求してから、6ヶ月間が経過する日まで
  4. 効 力
    ◇ 配偶者は、相続開始前と同じ用法で、居住建物を使用することができる。
    ◇ 配偶者短期居住権は、譲渡することはできないし、第三者に使用させる場合には、全ての相続人にの同意が必要
    ◇ 配偶者が死亡した場合には、存続期間満了前でも配偶者短期居住権は消滅する。
  5. 施行期日と経過措置
    ◇ 施行期日:令和2年4月1日
    ◇ 経過措置:施行日よりも前に発生した相続については適用しない。

 Menu

  1. 新しく創設された配偶者短期居住権
    1.共同相続の場合における、居住建物の配偶者の単独使用について
    2.最高裁平成8年12月17日判決と共同相続人の建物の無償使用
  2. 配偶者短期居住権の内容と成立の要件
    1.配偶者が居住建物の遺産分割協議に参加する場合
    2.配偶者以外の第三者が居住建物を取得したときなどの場合

1.新しく創設された配偶者短期居住権

 配偶者が、被相続人所有の居住建物に無償で住んでいた場合、配偶者は、住み慣れた居住建物にしばらくの間、無償で住み続けることはできるようにするために、配偶者短期居住権が創設された。

共同相続の場合における、居住建物の配偶者の単独使用について

 被相続人が死亡し相続が発生すると、被相続人に配偶者を含め複数の法定相続人が生存している場合には、遺産分割が終了するまでは、被相続人の財産は、共同相続人間での遺産共有の状態となる。

 遺産共有では、共同相続人が、それぞれの法定相続分の割合に応じて、共有持分を持つことになる。そして共用物となった相続財産の一部である居住建物の利用方法については、各共有者の共有持分の価格に従い、その過半数で決する(民法252条)とされているので、2分の1の法定相続分(共有持分)を有する配偶者は、他の共同相続人の協力が得られた場合はもちろん、他の共同相続人全員が反対した場合でも、反対する他の相続人も過半数を上回ることなく、共有物ついて新たな利用方法を定めることはできないので、現状維持ということになり、結局のところ、配偶者が望めば、居住建物に住み続けることは可能であるといえる。

 しかし配偶者が居住建物に住み続けることができたとしても、費用の負担の問題が発生することになる。各共有者は、共有物の全部について、その持分の割合に応じて使用することができる(民法249条)とされていることから、共有物を単独で使用している共有者に対して、他の共有者は持分割合に応じて賃料相当額の金員を請求できるものとされている。つまり配偶者が一人で居住建物に住み続けている場合、他の共有者は、自己の持分に応じた使用ができないことを理由に、配偶者に対して、自己の持分割合に応じた賃料相当額を請求でき、配偶者はこれを支払う必要があるのである。

配偶者の居住権の確保

 また、被相続人が遺言を残していたときは、遺産の処分については遺言の内容に従うことになるので、必ずしも遺産共有の状態にならない場合もあり得る。遺言で、配偶者が居住していた建物を特定の相続人などの受遺者に譲り渡す旨を残していたときには、当該建物の所有権は受遺者に移転することになるので、当該建物の利用方法は、受遺者が決めることになる。従って、当該建物に配偶者が住み続けることができるかどうかは、受遺者の意思次第となり、配偶者が継続して居住できるか否か、居住できる場合には無償か有償かについては、話し合いで決めることになる。配偶者と受遺者の合意が形成できなかったときは、配偶者は退去せざるを得なくなる場合もあるのである。

POINT
  • 被相続人の所有していた建物に居住していた配偶者は、相続発生後も、当該建物に住み続けることができる。
  • ただし、共同相続によって取得した当該建物は、配偶者を含む共同相続人間で共有することになるので、他の相続人から持分に応じた家賃相当額の請求があった場合には、配偶者はこれを支払う義務が生じることになる。
  • なお、居住建物を配偶者以外の者に遺贈する旨の遺言がある場合には、当該建物の所有者である受贈者の意思次第になるので、配偶者は建物を退去せざるを得ないこともあり得る。

 

最高裁平成8年12月17日判決と共同相続人の建物の無償使用

 配偶者は、被相続人が生きていた間は、居住建物に無償で住んでいたにもかかわらず、被相続人の死亡後は、有償となってしまう可能性がある。そして実際に裁判で争う事態も発生している。

 最高裁平成8年12月17日判決(以下「平成8年判例」という。)では、「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、相続開始後も遺産分割までは、無償で使用させる旨の被相続人の同意があったものと推認され、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、同居の相続人を借主とする使用貸借契約関係が存続する。」と判断している。この判決では、無償で被相続人と同居していた相続人の一人が、被相続人の死亡によって、急遽、家賃相当額の金銭の支払債務を負うことは酷であるとの判断から、使用貸借契約の存続が推認され、遺産分割協議が終了するまでの間は、これが継続することになるので、同居相続人は無償で建物に住み続けることができるとしたのである。

 この判例を適用することで、共有に関する規律の例外として、配偶者は、少なくとも遺産分割協議が終了するまでの期間は、居住建物に無償で住み続けることができることになる。しかしこの判例の適用を受けることができる範囲について、気になるところがある。判例では「相続開始前から被相続人の許諾を得て被相続人と同居してきたとき」とあるが、一般的に、配偶者が、他方配偶者の許諾を得て同居をするものであろうか、また「特段の事情のない限り」ともあり、たとえば居住用建物を配偶者以外の相続人や受遺者に遺贈することとなった場合には、特段の事情がある場合に該当するかもしれない。

 そこで今回の改正では、この判例を基礎として、相続開始から遺産分割が終了するまでの比較的短期間における配偶者の居住権を、より一層に保護することができるように、新しく配偶者短期居住権の制度が創設されることになった。さらに配偶者短期居住権では、平成8年判例の適用外となる居住建物を配偶者以外の者に取得させる旨の遺言があった場合にも、しばらくの間、配偶者は居住建物に無償で居住することができるように整備した。

POINT
  • 平成8年判例によれば、配偶者と被相続人が、被相続人の所有する建物に同居していた場合には、相続が発生した後も遺産分割が終了するまでの間は、当該居住用建物を無償で使用することができる。
  • 相続法改正では、平成8年判例をベースとして、相続開始後から遺産分割終了するまでの期間の配偶者の居住権を保護する目的として、新しく配偶者短期居住権を創設することとなった。

2.配偶者短期居住権の内容と成立の要件

 配偶者短期居住権の成立の要件と存続期間は、配偶者が居住建物の遺産分割協議に参加するのか、参加しないのかによって異なるので、注意が必要である。

配偶者が居住建物の遺産分割協議に参加する場合

 改正法では、配偶者が、被相続人の所有していた建物に無償で居住していたときに、配偶者が居住建物について遺産分割協議に参加する場合には、相続開始から遺産分割協議が終了するまで、または相続が開始してから6ヶ月以内を経過するまでの、いずれか遅い日までの間、配偶者は、無償で居住用建物を使用することができる。

 配偶者が居住建物の遺産分割協議に参加する場合とは、居住建物について遺言や死因贈与契約などが存在しなく、配偶者が他の相続人と、居住建物を共同相続するようなケースを想定している。

 上述の平成8年判例と比較すると、平成8年判例では、対象が共同相続人となっているところ、配偶者短期居住権の対象は、法律婚の配偶者に限り認められており、内縁関係の配偶者や子などの相続人は対象外となるので注意が必要である。また配偶者は、被相続人の所有する建物に無償で居住していれば成立し、被相続人との同居まで必要とされていないので、被相続人が、長期間、介護施設に入所していて、配偶者が独居であったような場合にも適用されることとなる。従って配偶者に限れば、平成8年判例よりも配偶者短期居住権の方が、適用範囲が広いと言える。なお、今回の改正によって、平成8年判例が修正されることはないので、他の相続人については、引き続き平成8年判例の要件に基づき、適用の可否について検討することになる。

配偶者短期居住権の効力について

 配偶者は、相続開始のときから、遺産分割協議が終了した時又は相続開始の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日まで、居住建物を無償で使用することができる。このとき配偶者は、居住していたときと同じ用法で、建物を使用しなければならない。配偶者短期居住権を譲渡することはできないし、居住建物を第三者に使用させる場合には、他の全ての相続人の承諾を得なければならない。さらに配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担することになるので、固定資産税や小修繕の費用などは、配偶者が負担することとなる。

 配偶者短期居住権は、存続期間の満了前であっても配偶者が死亡した場合には、消滅する。消滅に伴って居住建物を返還する場合には、居住建物について原状回復をする必要があるが、配偶者の死亡の場合は、配偶者の相続人が原状回復義務を負うこととなる。

POINT
  • 配偶者が、被相続人所有の居住建物に無償で居住していたときには、居住建物について居住建物について配偶者が遺産分割協議に参加する場合には、配偶者短期居住権が成立する。
    配偶者は、配偶者短期居住権が存続している間、居住建物に無償で住むことができる。
  • この場合の配偶者短期居住権の存続期間は、居住建物についての遺産分割協議が終了する迄か、相続開始の時から6ヶ月間が経過する迄の、いずれか遅い日までである。
  • 配偶者は、配偶者短期居住権を譲渡することもできないし、第三者を勝手に住まわせるなど以前の使用方法と異なる用法で使用することはできない。

配偶者以外の第三者が居住建物を取得したときなど、配偶者が遺産分割に参加しない場合

 被相続人が、遺言や死因贈与契約によって、配偶者が無償で居住していた建物を、他の相続人を含む配偶者以外の第三者に対して遺贈等していた場合、居住建物は、受遺者等の所有となるので、配偶者は、居住建物について遺産分割協議に参加することはできない。この場合、配偶者は居住建物について共有持分を有していないので、受遺者等の請求によって、退去せざるを得なくなる場面も生じる。この場合には、平成8年判例の成立要件の例外である、「特段の事情がある場合」に該当することになるので、平成8年判例によっても、保護することは難しいと考えられる。そこで、遺言などによって配偶者以外の者が居住建物を取得した場合においても、配偶者短期居住権の適用を認め、配偶者の保護を図ろうとするものである。

適用の範囲

 被相続人の遺言や死因贈与契約によって、居住建物を配偶者以外の者が取得する場合に適用される他、配偶者が、相続放棄によって、居住建物の遺産分割協議に参加しなかった場合にも、配偶者短期居住権は成立することになる。しかし配偶者が、欠格事由に該当した場合や廃除によって相続権を失った場合には、適用はない

適用の範囲

 配偶者は、居住建物の所有権を相続または遺贈等によって取得した者からの配偶者短期居住権消滅の申入れがあった日から6ヶ月を経過する日までの間、居住建物に無償で住むことができる。存続期間以外の規律は遺産分割に参加した場合と同じとなる。

POINT
  • 配偶者が、被相続人所有の居住建物に無償で居住していたときには、居住建物が配偶者以外の者に相続または遺贈された場合にも、配偶者短期居住権が成立する。
  • 配偶者は、配偶者短期居住権が存続している間、居住建物に無償で住むことができる。
  • この場合の配偶者短期居住権の存続期間は、居住建物の所有権を相続または遺贈により取得した者から、配偶者短期居住権の消滅について請求されてから、6ヶ月間が経過する迄の日までである。
  • 配偶者が相続放棄をした場合には、配偶者短期居住権が成立するが、欠格事由に該当するか廃除によって相続権を失った場合には適用を受けることはできない。

民法(相続法)・17の改正項目の詳細解説TOPへ戻る

改正条文

第2節 配偶者短期居住権

(配偶者短期居住権)
第1037条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
 一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日
 二 前号に掲げる場合以外の場合 第3項の申入れの日から6箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

(配偶者による使用)
第1038条 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
3 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。

(配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅)
第1039条 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。

(居住建物の返還等)
第1040条 配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第599条第1項及び第2項並びに第621条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

(使用貸借等の規定の準用)
第1041条 第597条第3項、第600条、第616条の2、第1032条第2項、第1033条及び第1034条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。

民法(相続法)・17の改正項目の詳細解説TOPへ戻る

あわせて知りたい

コンタクトフォームへのリンク

Pocket

コメント

コメントを残す

*