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民法(相続法)改正|遺言執行者がある場合における相続人等の行為の効果

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遺言執行の妨害行為の禁止
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遺言執行の妨害行為の禁止

遺言執行者がいる場合の相続人がなした処分行為の効果など

  • 遺言執行者がいる場合、相続人が遺言の内容と異なる財産の処分をすることはできず、これに違反して相続人が行った行為は無効となる。ただしその効果は善意の第三者には対抗することはできない。
  • 相続債権者や相続人の債権者が、相続財産に対して行った差押等については、善意悪意を問わず、先に登記をした者が優先される。
  1. 施行期日:令和元(2019)年7月1日

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  1. 相続人による遺言執行の妨害行為の禁止と第三者保護
    1.相続人による遺言執行の妨害行為の禁止
    2.第三者保護と債権者保護

1.相続人による遺言執行の妨害行為の禁止と第三者保護

 遺言執行者がいる場合には、相続人が相続財産の処分などの遺言執行を妨げる行為をしたときは、当該行為は無効であるが、第三者との関係においては、取引の安全を優先して、善意の場合には無効ではなく対抗関係で処理することとなった。

1.相続人による遺言執行の妨害行為の禁止

 改正前の第1013条では、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他の遺言の執行を妨げるべき行為をすることはできない。」とされていた。そして判例では、この規定に反して相続人がした処分行為は絶対的に無効であると解していた。そして改正後も、相続人の処分行為については無効であることは維持している。

2.第三者保護と債権者保護

① 第三者保護

 相続人による遺言執行の妨害行為は無効を維持しているが、第三者との関係においては修正されることとなった。改正前の判例では、遺言の執行を妨げる相続人の処分行為は絶対的に無効であるとして、当該相続人との取引相手との関係においても無効となっていた。これについては、遺言の内容を知り得ない第三者に不測の損害を与え、取引の安全を害する恐れがあるの指摘がなされていた。

 そこで、当該行為は絶対無効ではなく善意の第三者には対抗することができないと改正された。ここのでの善意とは、「相続人に処分権限がなかったこと」を意味し、遺言執行者がいて、財産の管理処分権が遺言執行者にある事を知らなかった場合には有効となるということである。また、あくまでも他の相続人との関係において、第三者が他の相続人に対して自らの権利を主張する場合には、登記等の対抗要件を備えておく必要がある。

遺言執行の妨害行為の禁止と第三者保護

 被相続人が自宅を受遺者に遺贈する旨を遺言していたにもかかわらず、相続人が遺言の内容に反して自らの名義の登記にした。その後に、相続人は自宅を第三者に売却をし、遺言の内容を知らない第三者は、購入後、自らの登記に変更をした事案が考えられる。

 今回の改正で、遺言の執行を妨げる相続人の行為は無効であるが、遺言の内容を知り得ない買主である第三者は保護されることとなった。したがって、買主が善意である場合に限って、既に第三者の登記名義となっているので、遺言執行者は第三者に対する所有権移転登記の抹消を請求することはできないこととなった。

② 債権者保護

 改正後の第1013条第3項では、遺言執行者がいる場合の相続債権者や相続人の債権権者の権利行使について規定を設けた。改正前の判例の考え方によると、遺言執行者がいない場合には、遺贈の受遺者と相続債権者等とは対抗関係にあり先に対抗要件を備える必要があるにもかかわらず、遺言執行者がいる場合には遺贈が優先され、遺言の内容や遺言執行者の有無などを知り得ない相続債権者等の第三者に不測の損害を与えることになり、取引の安全を害するとの指摘がなされていた。

 そこで改正後は、遺言執行者がいる場合においても、相続債権者や相続人の債権者による差押等の強制執行や相殺の意思表示などの権利行使をすることを妨げないことを明文化することとした。これによって、相続債権者等が遺言執行者の有無を知っているか否かにかかわらず、受遺者と相続債権者等との関係は、先に対抗要件を備えた者が優先されることとなる。この関係性は遺贈があった場合の他にも、改正第899条の2の新設に伴い、「相続させる旨の遺言」(特定財産承継遺言)があった場合にも、同様である。したがって相続債権者等の関係においては、遺言執行者は速やかな遺言執行が必要となったといえる。

遺言執行と相続債権者の権利行使

 被相続人が、事実婚の妻である受遺者に自宅を遺贈する旨の遺言を残していた。受遺者が自宅の登記名義を変更する前に、被相続人に対する貸付債権を有する相続債権者が、自宅に対して差押手続きを行った。遺言の内容を実現するために遺言執行者は、当該差押登記を抹消できるかという事案が考えられる。

 今回の改正では、相続債権者は、遺言の内容や遺言執行者がいることを知っていたとしても、先に登記をした方が優先されることとなったため、遺言執行者は当該差押登記を抹消請求することができないことが、明確となった。

POINT
  • 遺言執行者がある場合に、相続人が遺言の内容に反する処分行為をした場合には、その行為は無効となることは維持される。
  • しかし当該行為をした相続人の取引先である第三者については、相続人に権限がないことについて善意である場合には、保護されることとなった。
  • 相続債権者や相続人の債権者は、遺言執行者の有無を知っているか否かにかかわらず、先に差押などの対抗要件を備えた者が優先されることとなる。
関連情報

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改正条文

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

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