遺贈義務者の担保責任の見直し
遺贈義務者の担保責任の見直し
遺贈義務者は、特定物か不特定物を問わず、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始時の状態で引き渡す義務を負う。遺贈の目的物が抵当権等の第三者の権利の対象となっていても、その権利を消滅させることなく、そのままの状態で引き渡せば足りることになった。
- 施行期日と経過措置
施行期日:令和2(2020)年4月1日
経過措置:施行日前にされた遺贈について、遺贈義務者の引渡義務及び第三者の権利の目的となっている遺贈は、従前のとおりとする。
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1.担保責任と債権法の改正との整合性
改正前の法998条では、不特定物の遺贈義務者の担保責任を定めているが、令和2(2020)年施行の民法(債権関係)の改正では、売買の担保責任に関する規律と贈与の担保責任に関する規律について見直しを行っている。売買の担保責任については、目的物が特定物、不特定物であるかを問わずに、契約の内容に適合する物の引渡し義務を負うと改正された。贈与の担保責任についても、贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定すると改正された。
そこで改正前では遺贈の目的物が不特定物である場合の規律として定められているが、債権法での見直しとの関係を踏まえて、遺贈の担保責任についても見直しを行うこととなった。
2.改正法における遺贈義務者の引渡し義務
改正法998条では、遺贈義務者の引渡し義務として、原則として、遺贈の目的となる物または権利を、相続開始の時点での状態で、引き渡しまたは移転する義務を負うことなる。ただし遺言者がその遺言において別段の意思を表示したときは、その意思に従うこととしている。贈与の場合と異なり、別段の意思の表示が遺言に限られているのは、死者の意思を巡る紛争を防止するためである。
3.第三者の権利の目的となっている遺贈
改正前の法1000条では、遺贈の目的である物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。ただし遺言者がその遺言に反対の意思表示をしたときは、この限りではない、と定めていた。
しかし改正法998条の規律において、遺贈義務者の引渡義務は、相続開始の時点での状態で引き渡せば足りることから、たとえ遺贈の目的である物又は権利が第三者の権利の対象となっていたとしても、その第三者の権利を消滅させることなく、引き渡しまたは移転すれば引渡し義務は履行したことになる。そのため改正前の法1000条は削除することなった。たとえば遺贈の目的である不動産に抵当権が設定されているような場合であっても、受遺者は、原則として、遺贈義務者に対して、その権利を消滅させるように請求することができないこととなる。
POINT
- 遺贈義務者は、受遺者に対して、特定物か不特定物を問わず、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始時の状態で引き渡す義務を負うことになる。
- たとえ遺贈の目的である物又は権利が第三者の権利の対象となっていたとしても、その第三者の権利を消滅させることなく、引き渡しまたは移転すれば引渡し義務は履行したことになる。
関連情報
改正条文
(遺贈義務者の引渡義務)
第988条 遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(第三者の権利の目的である財産の遺贈)
第1000条 削除