相続と遺言

相続放棄と固定資産税納税義務

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相続放棄と固定資産税
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相続放棄をすると固定資産税の納税義務は免除だが、
例外的に課税されることもある

相続放棄をすると、被相続人が支払っていなかった固定資産税などの債務は相続することはありませんが、例外的に相続放棄をしても固定資産税が課税されることがあります。相続放棄をしたら速やかに債権者等に対して相続放棄の手続きが完了したことを伝えることが大切です。

相続放棄をすると被相続人名義の不動産の固定資産税の納税義務は免れることができる

相続放棄をすると、相続の時にさかのぼって、相続人となる資格を失いますので、当然に被相続人の不動産や貯金などの財産や借金や保証などの債務を承継することはありません。もし被相続人が亡くなる前に固定資産税を支払っていなかった場合、被相続人に課せられた納税義務は相続債務に含まれます。相続放棄をすると相続債務は承継(相続)されることはありませんから、相続放棄をした相続人は未払の固定資産税を支払う必要はありません。

不動産登記簿の名義人が勝手に変更されて、固定資産税の納付義務が発生することもある

固定資産税は、賦課期日である毎年1月1日時点の不動産の所有名義人に対して課税を行う課税台帳主義を採用しています。ここでいう不動産の所有名義人とは、不動産登記簿や課税台帳に記載されている名義人のことで、必ずしも真の所有者であることは必要とされていません。仮に不動産登記簿や課税台帳に間違えて真の所有者以外の者が記載されているときであっても、固定資産税の納付義務は、真の所有者でなく、不動産登記簿や課税台帳に記載された者が負うことになっています。

(固定資産税の納税義務者等)
第343条 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。(一部省略)

たとえば、被相続人に借金がある場合、被相続人の債権者が、被相続人の不動産に対して借金の返済のために差押をしようとするときには、不動産の名義を既に亡くなった被相続人から法定相続人に変更する必要があります。債権者は相続人に断りなく、不動産の名義を債権者代位によって変更することができますので、勝手に不動産登記簿の名義人を法定相続人に変更してしまいました。その後、賦課期日である1月1日を経過し、相続人が相続放棄をしました。

このとき、相続人は相続放棄をしたので、被相続人の借金は相続しませんし、前年度の固定資産税の納税義務も承継することはありません。しかし1月1日時点で不動産登記簿には名義人として相続人の名前が記載されていたことから、今年度の固定資産税等について課税されてしまいました。

このように固定資産税については、真の所有者であるかどうかにかかわらず、不動産登記簿や課税台帳に記載がある者に対して課税される制度となっています。所有者でないにもかかわらず固定資産税を納付した者は、真の所有者に対してその費用を請求することはできるとされていますが、被相続人が債務超過であったような場合には、他の相続人も同じように相続放棄をすることが多く、結局は立て替えて支払った固定資産税の回収は難しいことが少なくありません。

いずれにせよ、不動産登記簿の名義をそのままにしておくことは、問題がありますので、司法書士や法務局に相談しながら、名義変更をする必要があります。

被相続人の債権者が代位により相続登記を経由した結果、賦課期日に登記簿上所有者とされている者に対してなされた固定資産税及び都市計画税賦課処分は、台帳課税主義は、多数の固定資産につき限られた人員で短期間に徴税事務を行わなければならないところ、所有権の帰属の判定に困難を伴うことから、徴税の便宜を図る必要があるという理由によるものであり、法律が明示的に認めている場合以外に、台帳課税主義の例外を認めることは許されないとして、その後、登記名義人らが相続放棄してもその課税処分は適法である。(横浜地裁判平成12年2月21日)

役所から代表相続人選定届が送付されたとしても相続放棄できる

相続放棄を検討している間に、役所から相続人に対して『代表相続人選定(指定)届け』が送付されることがあります。固定資産税は、地方税法第343条第2項の規定により、相続人全員が連帯して納税義務を負うことになりますので、納税通知書などの書類を相続の手続きが完了し、所有者が確定するまでの間、受け取る代表者を定めるためのものです。

役所が相続人のなかから代表者を勝手に選定して送付している書類ですので、この届出を受取ったからといって、相続財産の所有権を確定させるものではありません。相続放棄をしようと考えている人は、役所に放棄をする予定であることを連絡し、共同相続人や次順位の相続人など相続財産を相続する予定の者の連絡先等を伝えてください。その後相続放棄の手続きが完了した後に、役所に相続放棄申述受理証明証の写し等を送付しておけばよろしいかと思いますので、役所とご相談下さい。

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コメント

  1. 西 より:

    今年1月30日に放棄後、役所から固定資産税納付書が届き、どうしたらいいのかわからず、ネットで調べていた所、こちらを拝見させていただきました。
    弁護士の方には納付する必要はないと言われましたが、役所の方に、1月1日時点では、まだ放棄されていなかったので納付義務があると言われました。
    やはり納付すべきでしょうか?
    コメント欄に、このような事をご相談し、本当に申し訳ありません。

  2. 西様

    ご相談ありがとうございます。
    民法939条では、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」とされております。その相続放棄の効果は相続開始の時点まで遡ることとなりますので、原則、固定資産税を支払う義務はありません。
    しかし、どのような経緯で、西様が登記簿や課税台帳等に所有者として登録されたのか、調べておく必要があります。もし所有者としてでなく、代表相続人として納付書を受領してるだけであれば、その旨を役所に告げることで理解してもらえるかもしれません。
    また、次順位の相続人がいるのならば、その者に不動産の管理を承継してもらうようにしてください。

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