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民法(相続法)改正|遺言執行者の権限の明確化と行為の効果

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遺言執行者の権限の明確化
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遺言執行者の権限と役割を明確

遺言執行者の権限の明確化と行為の効果

  • 遺言執行者の権利義務について、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他の遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することが明確化された。
  • 遺言執行者がその権限の範囲内において顕名して行った行為については、相続人に対して直接効力が及ぶものとなる。相続人の代理人であることは否定された。
  • 「特定財産承継遺言」の対抗要件を備える手続きについては、受遺者も遺言執行者も両方がすることができるようになった。

    施行期日:令和元(2019)年7月1日

    経過措置

  • 遺言執行者の任務開始の通知(第1007条第2項)と遺言執行者の権利義務(第1012条)の規定については、施行日よりも前に発生した相続であっても、施行日以後に遺言執行者となる者にも適用する。
  • 特定財産に関する遺言の執行(第1014条第2項から第4項まで)の規定は、施行日前にされた遺言によって遺言執行者が執行する場合には、適用しない。
  • 遺言執行者の復任権(経過措置第1016条)は、施行日前にされた遺言によって遺言執行者となる者には、適用せずに従前の例による。

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  1. 遺言執行者の一般的な権限等と行為の効果
    1.一般的な権限と行為の効果
    2.相続人への通知義務
    3.遺言執行者の復任権
  2. 遺言執行者の個別類型における権限等
    1.特定遺贈がされた場合
    2.特定財産承継遺言があった場合
    3.預貯金債権の解約または払い戻しについての場合

1.遺言執行者の一般的な権限等

1.一般的な権限と行為の効果

 遺言執行者の一般的な権限として、遺言の内容を実現する責務が明確化され、遺言執行に必要な一切の行為をする権限が明確にされた。そして遺言執行者がその権限の範囲内において遺言執行者であることを示してした行為については、相続人に対して直接効果が及ぶこととなる。

 改正前は、「遺言執行者は相続人の代理人とみなす。」と規定されていたことから、遺言者の意思と特定の相続人の利益とが対立する場面においては、遺言執行者の責任が不明確であることを指摘されていた。

 遺言執行者は、相続人の代理人ではなく、遺言の内容を実現することが責務であることが明確になったことで、遺言の内容が特定の相続人に対して不利益な内容であっても、あくまでも遺言内容の実現のための職務を遂行すれば足りることとなる。相続人からの遺留分侵害額請求に関して、この改正と遺留分の金銭債権化と相まることで、遺言執行者には被告適格は認められなくなる。

2.相続人への通知義務

 遺言執行者は、その任務を開始した時は、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知することが義務付けられた

 遺言執行の任務の一環として相続人に対する通知義務を明確にしたのである。これは遺言執行者がいない場合、相続人は、遺言の内容を実現する義務、つまり遺贈等の履行義務を有していることになるが、遺言執行者がいる場合には、履行義務は遺言執行者が負うことになる。そのため遺言執行者が、就任を承諾し、任務を開始した場合には、速やかな相続人への通知義務を課して、相続人保護を図ったのである。

 なお、この観点からも通知すべき相続人の範囲には、遺留分の有無など制限を加えることなく、すべての相続人を対象にすべきと考えられる。そのため遺言執行者の職務には全ての相続人を把握するための相続人調査も含まれることとなる。

3.遺言執行者の復任権

 さらに遺言執行者の復任権に関する規定についても改正された。改正前は、遺言執行者は、遺言者がその遺言に反対の意思を表示した場合を除き、やむを得ない事由がなければ第三者にその任務を行わせることができないとされている。しかし遺言執行者に指定された者が必ずしも、十分な法律知識を有しているとは限られないことから、その場合には、指定された者が適切に遺言執行することができないことも考えられるとの指摘がある。

 そこで今回の改正では、やむを得ない事由がなくとも遺言執行者は第三者に遺言執行を行わせることができるとした。そして遺言執行者にやむを得ない事由があり第三者に任務を行わせた場合、選任及び監督についてのみ責任を負うとされた。これは法定代理人が第三者を複代理人に選任した場合の責任と同様になる。

POINT
  • 遺言執行者の責務が、遺言を執行し、遺言内容の実現のための職務を遂行することであることが明確になったことで、たとえ特定の相続人にとって不利益な内容の遺言であっても、今後は遺言執行が円滑に進むことが可能になると期待される。

2.遺言執行者の個別類型における権限等

 従来から遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされていたが、その具体的な権限等については、解釈に委ねられてきところ、今回の改正によってこれを明確にすることになった。

1.特定遺贈がされた場合

 改正前は、不動産が特定遺贈された場合、受遺者へ所有権移転登記申請手続は、権利者を受遺者、義務者を相続人または遺言執行者とする共同申請の方法によってしていた。しかし今回の改正では、遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができるとされたよって受遺者は特定遺贈の履行の請求について、遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対して、いない場合には相続人に対してすることが明確になった。

 また遺贈の目的が不特定物である場合にも、請求の相手先は特定遺贈と同じである。そして請求を受けた遺言執行者は、その物を給付するのに必要な行為し、これを受遺者に引渡し、対抗要件を具備するのに必要な行為をする必要がある。

2.特定財産承継遺言があった場合

 特定財産承継遺言とは、今回の改正で新たに定義されることとなったものであるが、これはいわゆる「相続させる旨の遺言」によって特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言のことである。改正前では、「相続させる旨の遺言」があった場合には、遺産分割の方法の指定があったとされ、相続による承継の効果は直ちに生じるとされていた。そのため「相続させる旨の遺言」に関しては、原則として、その遺言の履行には遺言執行者は関与する義務も権利もないとされていた。

 しかし今回の改正では、特定財産承継遺言があった場合には、遺言執行者は、財産を承継する相続人が対抗要件を具備するために必要な手続をすることをできるとし、今までの判例の解釈を変更する改正を行った。これにより共同相続における権利の承継の対抗要件(第899条の2)を新設し、「相続させる旨の遺言」による場合の財産の承継を含めて、相続人が法定相続分を超える部分について登記等の対抗要件を具備しなければ第三者に対抗できないとしたことを受けて、速やかに対抗用具備する必要性が高まったことから、遺言執行者の権限を拡張することした。

①不動産の場合

 特定財産承継遺言の目的物が不動産である場合、対抗要件を備えるためには、財産を承継する相続人名義に登記をする必要がある。特定財産承継遺言の法的性質は、遺産分割の方法の指定であり、相続であることは改正したとしても変更されないため、被相続人から財産を承継する相続人への所有権移転登記申請は、相続を原因とする単独申請で行うことになる。そしてその申請は、承継する相続人でも、遺言執行者でもできると考えられる。

②動産の場合

 動産の対抗要件を備えるには、目的物の引渡しが要件となる。目的物の状態や相続時の占有状態に応じて、現実の引渡し、簡易の引渡し等によって対抗要件を具備することとなる。

③債権の場合

 債権の承継の対抗要件は、確定日付のある債務者への通知又は債務者の承諾が必要となる。そして債務者への通知は、原則として相続人全員ですることになるのであるが、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者が単独で通知することで足り、加えて第899条の2第2項では、承継する相続人の単独の通知でも足りると改正された。

3.預貯金債権の解約または払い戻しについての場合

 特定財産承継遺言の目的が普通預金や定期預金などの預貯金債権である場合には、対抗要件を備えるための権限を有するほか、預貯金の払戻しや口座の解約をする権限が付与された。ただし特定財産承継遺言の対象が預貯金債権の一部である場合には、遺言執行者は、預貯金の全部の引落としが伴う口座解約の申し入れはすることは認められない。

POINT
  • 遺言執行者がある場合に、特定遺贈の対抗要件を備える登記手続き等は、遺言執行者だけができることが明確となった。
  • 一方で、「特定財産承継遺言」の対抗要件を備える手続きについては、受遺者も遺言執行者の両方がすることができる。
  • 遺言執行者は、特定財産承継遺言の目的が預貯金債権である場合、当該預貯金の払戻しなどの権限を有することが明確化された。
関連情報

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改正条文

(遺言執行者の任務の開始)
第1007条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

(遺言執行者の権利義務)
第1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

(特定財産に関する遺言の執行)
第1014条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

(遺言執行者の行為の効果)
第1015条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

(遺言執行者の復任権)
第1016条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

(遺言執行者の報酬)
第1018条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2 第648条第2項及び第3項並びに第648条の2の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。

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