共同相続時における権利の承継に関する対抗要件主義の導入
相続させる旨の遺言の対抗要件主義の導入
共同相続時において、いわゆる「相続させる」旨の遺言等によって、民法で定める法定相続分を超えて不動産や預貯金を取得した相続人は、登記などの対抗要件を満たす手続きをしなければ、自らの法定相続分を超過する部分については、第三者に対抗することができないこととなった。
- 適用される範囲
特定財産承継遺言(第1014条第2項)遺産分割(第907条)、遺贈(第904条)、相続分の指定(第902条)、遺産分割の方法の指定(第908条) - 効果
法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない。 - 施行期日と経過措置
施行期日:令和元(2019)年7月1日
経過措置:施行日前に発生した相続であっても、施行日以降に遺産分割等をした場合にも、その承継の通知をするときにも適用される。
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1.改正前の取扱い
「相続させる旨の遺言」は特段の事情がない限り、民法第908条の「遺産分割の方法の指定」に当たるとされている。そして共同相続時に「相続させる旨の遺言」によって、民法で定める法定相続分を超過して遺産等を取得する場合、「遺産分割方法の指定」そのものに遺産分割の効果を認め、被相続人の死亡時に直ちにその遺産はその相続人に相続によって承継されることとなっていた。
一般的に不動産の取得に関しては、第三者に対して自らの権利を対抗するには、不動産登記簿に自らの権利を登記する必要がある。一方で、被相続人から、「相続させる旨の遺言」によって土地建物を相続した場合には、直ちにその遺産は承継されることとなるために、登記をしなかったとしても第三者に対抗することができた。
そして「相続させる旨の遺言」は、公証役場における公正証書遺言作成の実務において頻繁に利用されていたことから、公正証書遺言以外の遺言においても広く用いられている状況にあった。
2.対抗要件主義導入の趣旨
昨今話題となっている所有者不明土地問題は、相続登記を怠っていたことなどを理由として、登記簿に権利者として記載されている登記名義人と実際の権利者が一致しないことが原因の一つと言われている。そして不動産を取得したにも係わらず、登記名義を変更しなくとも、自らの権利が保護される「相続させる旨の遺言」は、相続登記の促進の障害になっていると指摘されていた。
また、遺言によって財産を取得させる特定遺贈の場合や共同相続人間で行う遺産分割の場合において、自らの法定相続分を超過して権利を取得したときは、第三者に対抗するためには登記が必要とされいることから、取引の安定化や相続債権者の権利の保護の観点から、対抗要件具備を必要とすべきとの要請もあった。
そこで、今回の改正では、いわゆる「相続させる旨の遺言」によって特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言のことを、特定財産承継遺言と定義することとした。そのうえで権利関係の公示による明確化を図るために、相続人以外の第三者の権利保護の要請から、「特定財産承継遺言」や「遺産分割方法の指定」「相続分の指定」によって法定相続分を超過した権利を取得した場合には、対抗要件を具備しないと第三者に対応することができないように改正した。
POINT
- いわゆる「相続させる」旨の遺言は、登記などの対抗要件を備えずとも、第三者に対抗することができたため、広く利用されていたが、今回の改正で、その効果が変更されることとなったので注意が必要である。
- 「遺贈」や「特定財産承継遺言」などによって法定相続分を超過した権利を取得した相続人は、対抗要件を具備しないと第三者に対抗することができないように改正された。
3.改正の内容
相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。この権利の承継には、新しく定義された特定財産承継遺言による承継はもちろんのこと、遺贈、遺産分割方法の指定、相続分の指定の他、遺産分割による権利の承継が含まれることになる。
他方で法定相続分と同じもしくはこれを下回る権利を承継した相続人の場合には、対抗要件を具備しなくとも、自らの権利の取得を対抗することができることとなる。
また、本規律による権利の承継の目的物は不動産に限られず、動産や預貯金などの債権も対象になることに注意が必要である。
POINT
- 対抗要件主義が導入された権利の承継は、「特定財産承継遺言」による承継の他、「遺贈」「遺産分割」「相続分の指定」「遺産分割の方法の指定」と相続を原因とする承継全般に適用される。
- 対抗要件を備えないと第三者に対抗することができない範囲は、遺言や遺産分割によって法定相続分を超過して取得した部分について適用される。したがって、法定相続分の範囲内であれば、対抗要件を具備することなく第三者に対抗することは可能である。
4.対抗要件具備の方法
相続による権利の承継は、その対象によって対抗要件具備の方法が異なる。
不動産の承継の場合には、民法177条に基づき、登記をすることで第三者に対抗することができる。
動産の場合には、民法178条に基づき、引渡しを受けることで対抗することができる。この引渡しには、現実の引渡しの他、簡易の引渡し、占有改定、指図による占有移転も含まれることとなる。
そして債権の場合、民法467条2項に定める債権譲渡の対抗要件が適用され、共同相続人全員による銀行等の債務者への確定日付ある通知または承諾によって、対抗要件を具備できるのが原則である。しかし相続の債権の承継の場合には、権利を取得する相続人以外の共同相続人の協力が必ずしも得ることができないことも想定し、単独通知による特則が設けられている。権利を承継する相続人は、遺言または遺産分割の内容を明らかにして確定日付のある通知を単独でした場合にも、対抗要件の具備が認められる。
POINT
- 相続による権利の承継を、第三者に対抗するためには、不動産であれば登記の名義変更、動産であれば引渡しが必要である。
- 債権の場合には、原則として共同相続人全員による通知が必要であるが、例外として権利を承継する相続人が、単独で、遺言や遺産分割の内容を明らかにして確定日付のある通知をすることでも認められる。
関連情報
改正条文
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
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