買主の追完請求権と代金減額請求権による救済を条文化
1.売主の追完義務
ポイント
- 売買契約の目的物が種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対して追完請求ができる。
- 追完方法には、目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しがあり、買主が一次的には選択権がある。売主は買主に不相当な負担を与えない場合には、買主の請求と異なる方法で履行の追完ができる。
- 買主に不適合の帰責事由がある場合には、追完請求することができません。
理由
- 契約の不適合とは、「その物が備えるべき性能、品質、数量を備えていない」という場合に限られず、「当事者の合意、契約の趣旨及び性質」に照らして目的物が適合していなければならないというように規律されました。
- 現行民法では、目的物に瑕疵があった場合に、目的物が特定物であるときは、買主はその修補や代替物の引渡しを求めることができなかったが、改正民法では、目的物が種類物か特定物かを問わずに買主による履行の追完請求権を認めることになりました。
- 契約の解除、損害賠償請求は買主に帰責事由がある場合には、行使することができないことから、履行の追完も買主が取り得る他の救済手段と整合性を図る必要があります。
実務への影響
- 売主は帰責事由がなくとも、追完義務を負うことになる。
- 追完方法が多様であることから、契約における特約による対応が必要である。たとえば、買主側の立場からすれば、売主の追完方法の選択権を排除する特約を設けるなどの対応を検討する必要がある。
2.買主の代金減額請求権
ポイント
- 引き渡された目的物が契約内容に不適合である場合、買主の救済手段として、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるようになりました。
- 買主は、原則、売主に対して相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、期間内に履行の追完がないとき代金減額請求権が認められています。
- 履行の追完不能のときなど催告が不要な場合も認められています。
- 買主に不適合の帰責事由がある場合には、減額請求をすることができません。
理由
- 現行民法では、「物の瑕疵」は減少すべき金額の算定が困難であることなどを理由に代金減額請求権は規定されていませんでしたが、権利の一部移転不能や数量不足の場合と同様に、等価的均衡を維持する必要性を認めて改正するに至りました。
実務への影響
- 債務不履行による契約解除があった場合、免責事由が売主にあり、買主が損害賠償請求をできなくとも、代金減額請求は行使可能です。
3.権利移転義務の不履行に関する売主の責任等
ポイント
- 売主は、移転すべき権利の内容に関して契約の趣旨に適合するものを移転する義務を負うことから、権利の全部又は一部を移転しない場合にも、目的物が契約内容に不適合であった場合と同様に、買主の追完請求、代金減額請求、債務不履行による損害賠償請求及び解除を認めることを明文化しました。
- 他人物売買で全部又は一部の権利を移転しない場合についても、同様の規定を適用することになりました。
理由
- 「物の瑕疵」と「数量不足」の規定が「権利の瑕疵」にも準用されて規律が整備され、分かりやすくなった。
- 買主の善意悪意といった主観的要件で結論が異なるのは合理的でないという批判もありました。
実務への影響
- 権利の瑕疵について買主の善意悪意といった主観的要素ではなく、売主が負っている契約上の権利移転義務の内容に基づき、その義務が履行されたかどうかが問題になることから、買主が悪意であることを理由に一律に救済が否定される結論にはならなくなります。
4.買主の権利の期間制限
ポイント
- 売主が契約内容に不適合の目的物を引渡した場合、買主がその不適合の事実を知ったときから1年以内に、当該事実を売主に通知しないときは、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除を主張する権利を失うことになります。
- 数量不足や権利移転義務の不適合の場合は、一般原則の消滅時効期間に服することになります。
- 売主が契約内容に不適合につき、悪意・重過失のときは期間制限を適用しません。
理由
- 現行民法では、買主は瑕疵を知ったとき時から1年以内に、瑕疵の内容及び損害賠償の額まで示さなければならないとしていました。
実務への影響
- 商法526条では、商人間の売買における目的物の瑕疵や数量不足があった場合の責任等について規定されているが、今回の改正に関連して削除、変更される予定がないことに注意が必要です。
5.買戻し
ポイント
- 買戻特約がなされた場合に、売主が返還しなければならない金銭の範囲を「買主が支払った金額及び契約の費用」とする旨の規定を維持しつつも、これを任意規定であることと改正しました。
理由
- 実務上は、返還金額に関する強行規定の適用を避けるため、買戻制度より再売買の予約が利用されていることが多いため、買戻制度を利用しやすくするために規定が改正されました。
実務への影響
- 売買契約と買戻特約は同時しなければならないことは改正されないが、所有権移転登記の後に、買戻特約を登記することができるようになりました。
- 「買主が支払った金額及び契約の費用」が絶対的記載事項であることに変わりはないが、登記事項の内容については任意規定とされました。
改正条文
(手付)
第577条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2 第545条第4項の規定は、前項の場合には、適用しない。
(権利移転の対抗要件に係る売主の義務)
第560条 売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。
(他人の権利の売買における売主の義務)
第561条 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(買主の追完請求権)
第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
(買主の代金減額請求権)
第563条 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前3号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第564条 前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
第565条 前3条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第566条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
(目的物の滅失等についての危険の移転)
第567条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
(競売における担保責任等)
第568条 民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は、第541条及び第542条の規定並びに第563条(第565条において準用する場合を含む。)の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
2・3 (略)
4 前3項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。
(抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求)
第570条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権、質権又は抵当権が存していた場合において、買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは、買主は、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。
第571条 削除
(担保責任を負わない旨の特約)
第572条 売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第576条 売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。
(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第577条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
2 前項の規定は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
(買戻しの特約)
第579条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第583条第1項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
(買戻しの特約の対抗力)
第581条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対抗することができる。
2 前項の登記がされた後に第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。
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