自筆証書遺言の財産目録の方式緩和
自筆証書遺言において、財産目録を添付する場合には、パソコン等で作成した目録や預金通帳のコピー、不動産登記事項証明書を財産目録として添付することができ、財産目録については自書することを要しない。
- 要件
◇自筆証書遺言と一体の目録であること
◇作成等した財産目録の全てのページに署名押印をすること - 施行期日と経過措置
施行期日:2019年1月13日
経過措置:施行期日よりも前に作成された自筆証書遺言には適用されない。
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1.自筆証書遺言の方式緩和の立法趣旨
一般的に多く利用されている遺言として、公正証書遺言と自筆証書遺言の2つの種類がある。公正証書遺言は、公証役場で公証人の関与があることから、作成された遺言が方式違背で無効となることは少ないが、費用がかかる、証人が必要、原則として公証役場まで出向く必要があるなど、現実に作成される遺言の件数は自筆証書遺言の方が多い。
しかしながら遺言は厳格な方式が定められているが、自筆証書遺言の場合、作成された遺言が方式違背で無効となったり、不完全な財産目録が記載されていることから不動産登記申請や預貯金払戻しの場面で遺言を利用することができなかったりするなどの問題を指摘されていた。
また、自筆証書遺言は「全文、日付、氏名」を全て自書しなければならないとされているところ、高齢の遺言者は、手が不自由であり多くの文字を書くのが負担であったり、細かい字で記載された財産目録の内容を書き写し間違えたりすることも多い。財産が多数ある場合には特に負担が大きいと指摘されていた。
そこで自筆証書遺言の財産目録部分については、自書である要件を引き下げ、パソコン等で作成した印刷した書面や預金通帳のコピー、不動産登記事項証明書を財産目録として利用できるようにした。改ざん偽造防止のため、当該財産目録の全てのページに署名押印することを必要とした。
POINT
- 自筆証書遺言は、公正証書遺言と比べて作成しやすいが、作成方式が厳格に定めらていることから、遺言が全部または一部無効になることも少なくない。
- より多くの市民に自筆証書遺言を活用してもらう観点から、作成方式を緩和し、財産目録に関する部分については、印刷やコピー等した書面に署名押印すれば足りるとした。
2.自筆証書遺言の作成の具体例
本文については、全文自書することが必要である。日付と署名の両方を忘れずに記載し、押印する。修正した場合には、偽造改ざん防止のため、修正した場所と修正した旨を明示したうえで署名し、さらに変更した箇所にも押印する必要がある。
財産目録については、以下のように、パソコンで作成・印刷した書面や預金通帳の表紙をコピーした書面、不動産の登記事項証明書などを使用することができる。それぞれの書面には、偽造改ざん防止のため、ページ毎に署名・押印が必要である。もし両面に記載がある場合には、その両面に署名・押印が必要である。なお、修正がある場合には、本文と同様の方法で修正をする。さらに財産目録で使用する際の印鑑は、必ずしも本文で使用したものと同一の印鑑を使用する必要はないが、偽造改ざん防止のためにも同一の印鑑を使用することが望ましいと考える。
POINT
- 自筆証書遺言の本文については、今までとおり全文自書し日付と署名・押印することが必要である。
- 財産目録が複数ページにわたる場合や両面に記載されている場合には、ページ毎に署名・押印を行う必要がある。
- 本文で押印した印鑑と財産目録で押印した印鑑は同一である必要はないが、改ざん防止のためにも同一の印鑑を使用することが望ましい。
関連情報
改正条文
第2節 遺言の方式
第1款 普通の方式
(普通の方式による遺言の種類)
第967条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
(自筆証書遺言)
第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
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