相続と遺言

相続放棄|未成年者には特別代理人の選任が必要!?

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相続放棄で特別代理人の選任が必要なときTOP
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未成年者や成年被後見人が相続放棄をするとき、
特別代理人が必要な場面とは?

未成年者や成年被後見人が相続をするときには、法定代理人である親権者や成年後見人が手続きを代理してするのが、原則です。しかし相続手続を行うにあたり、法定代理人だけでは行うことができないケースがあります。

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  1. 未成年者と相続放棄
  2. 相続放棄における利益相反行為とは?
  3. 成年被後見人と相続放棄
    Column 未成年者と遺産分割協議
  4. 特別代理人の選任手続
  5. 申請後の流れ
    Column 父母の一方のみと子の利益相反行為

01.未成年者と相続放棄

未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意を得なければならず、同意を得ないでした法律行為は、取り消すことができるとされております。もちろん未成年者が法定代理人の同意を得ずに単独でしても、有効な法律行為もあります。たとえば、おこづかいの範囲でする買い物などは、取り消すことかできない行為の一つとされています。

相続放棄も法律行為の一つですので、有効な相続放棄をするには、親権者である法定代理人の同意が必要と言うことになりますし、通常は法定代理人がその未成年者である子を代理して相続放棄の申請をすることになります。しかし法律では、親権者である父または母とその子との利益が相反する行為については、親権者はその子のために特別代理人を選任することが必要とされています。

相続放棄の申請で特別代理人の選任が必要なとき

たとえば、父が亡くなり、その共同相続人が母と未成年者である長男と長女の3人である右のケースでは、それぞれが法定相続分に応じて、相続するとそれぞれの相続分は母2分の1、長男、長女が4分の1ずつとなります。仮に母が2人の子供だけについて、相続放棄をした場合、子どもたちは相続分を失うことになり、母が全ての遺産を相続することになります。このように親権者が子の代理権を行使することで、親権者の利益となるような行為を「利益相反行為」と言い、利益相反行為」をする場合には、親権者は家庭裁判所に特別代理人の選任の請求をしなければなりません。

02.相続放棄における利益相反行為とは?

それでは相続放棄をする場面において、利益相反行為に該当し、特別代理人の選任が必要な場合とはどのようなケースなのか検討をしてみましょう。

001.遺産のほとんどが預金や不動産などのプラスの財産であり、母親だけが相続を承認、子供たちは相続放棄をする場合。

このケースでは、母親だけが遺産を相続し、子どもたちは遺産を受取れないことになるので、母親と子どもたちの利益が相反することは、容易に理解できるかと思います。
⇒ 長男と長女について特別代理人の選任が必要となります。

002.遺産のほとんどが借金などのマイナスの財産であり、母親と長男・長女の全員が同時に相続放棄をする場合。

このケースでは、全員が同時に相続放棄をし、母親も子どもたちも遺産を受取れないことになるので、母親と子どもたちの利益が相反する行為には該当しません。
⇒ 別代理人の選任は不要です。

003.遺産のほとんどが借金などのマイナスの財産であり、母親だけが相続を承認、子供たちは相続放棄をする場合。

このケースでは、1のケースと比較すると、遺産のほとんどがマイナスの財産であるから、母親だけが借金の支払う責任を負って、子どもたちはその負担を相続しないことになり、子どもたちにとって利益になるので、母親と子どもたちの利益が相反することはないと普通では考えます。しかし法律では、利益相反行為かどうかは、母親のした代理行為の動機や目的、必要性など考慮しないで、行為自体の外形的、客観的に考えて判断すべきとしています。よってこのケースでは実質的には利益相反行為には該当しないのでしょうが、外形的客観的には、1のケースと同じになり、特別代理人の選任が必要になります。このように相続放棄をする際に特別代理人の選任が必要かどうかは、どのような遺産があって、どのような遺産を相続するかは関係なく、形式的に判断されることになります。
⇒ 長男と長女について特別代理人の選任が必要となります。

004.母親と長男が相続を承認して、長女だけが相続放棄をする場合。

母親と長男が遺産を相続して、長女は遺産を受取れないことになるので、母親および長男と長女の利益が相反します。
⇒ 長女について特別代理人の選任が必要となります。

005.母親は相続放棄をする予定であるが、先に子どもたちだけが相続放棄をする場合。

002のケースと同様と考えられますが、子どもたちの申請時点では、母親は相続放棄をしていませんので、001や003のケースと同じく、選任が必要となります。子どもたちの相続放棄の申請よりも先に母親が相続放棄の申請をしている、または遅くとも同時に申請している場合においては、不要です。
⇒ 長男と長女について特別代理人の選任が必要となります。

03.成年被後見人と相続放棄

ここまでは、相続放棄をする人が未成年者である場合について説明してきましたが、ここからは成年被後見人が相続放棄をする場合について説明していきたいと思います。

認知症などを原因として、判断能力が不十分であるため契約等の法律行為をすることが困難である場合には、後見人等がその法律行為の意思決定を援助することになります。成年被後見人がする法律行為は、日用品等の身の回りの買い物などの行為を除き、取り消すことができるとされています。

法律上、成年後見人は成年被後見人の法定代理人となりますので、成年被後見人が相続放棄をする場合は、成年後見人が代理して申請することが必要になります。このとき後見人が司法書士や弁護士などの専門職後見人であれば、その者が代理して申請すればよいのですが、後見人が被後見人の親族である場合には、親権者と未成年者との間の相続放棄手続と同様に、利益相反行為についての問題が生じます。そして利益相反行為の考え方は未成年者の事案と同じように考えます。

しかし被後見人に成年後見監督人が選任されている場合には、特別代理人選任の必要の有無について、未成年者の場合と異なるときがあります。

001.後見監督人が選任されていない場合

①相続放棄が利益相反行為に該当しているときは、後見人は特別代理人を選任して、特別代理人が被後見人の代わりに手続を代理して行います。

002.後見監督人が選任されている場合

①相続放棄が利益相反行為に該当しなくても、後見人は後見監督人の同意を得る必要があります。

②相続放棄が利益相反行為に該当しているときは、後見人の代わりに後見監督人が被後見人の代わりに手続を代理して行います。

Column 未成年者と遺産分割協議

親権者と未成年者が遺産分割協議をするときにも特別代理人が必要?

未成年者と成年被後見人が相続放棄をする場面で、特別代理人が必要となる事案かどうかについて説明をしてきましたが、この他にも、相続時において、未成年者と成年被後見人がする各種相続手続でおいて、注意が必要な事項について説明を追加します。

① 数人の子たちの親権者である父母が、その子どもたちを代理してする遺産分割手続をする場合には、その子どもたちのために特別代理人の選任が必要です。(相続人のなかに未成年者がいる場合の相続手続

② ①と同様に、共同相続人のうちの一人である成年後見人が同じ共同相続人の一人である成年被後見人のためにする遺産分割協議も利益相反行為となるので、特別代理人の選任又は成年後見監督人が代理する必要があります。(相続人が認知症になってしまった場合の相続手続

③ 成年後見監督人が選任されている場合は、成年後見人が成年被後見人のために、相続の承認及び限定承認をする場合は、利益相反行為であるかどうかに係らず、成年後見監督人の同意が必要です。

04.特別代理人の選任手続

特別代理人の選任は、家庭裁判所に申請書を提出して、裁判所に認めてもらう必要があります。

  • 申請人
    親権者、利害関係人(未成年者を本人とする場合)
    後見人、後見監督人(成年被後見人を本人とする場合)
  • 申請に必要な書類や費用
    1.  未成年者を本人とする申請
      • 申立書(東京家庭裁判所の書式はこちらです。)
      • 親権者及び未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
      • 特別代理人候補者の住民票又は戸籍附票
      • 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)
      • (利害関係人からの申立ての場合)利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)等)
      • 収入印紙 子1人につき800円
      • 郵便切手 82円×(子の数×6)、10円切手8枚)
    2.  成年被後見人を本人とする申請
      • 申立書(東京家庭裁判所の書式はこちらです。
      • 特別代理人候補者の住民票の写し
      • 遺産分割協議書(案)
      • 本人が相続放棄すべきであることがわかる書面(例:遺産目録、遺産の評価額)
      • 収入印紙 800円
      • 郵便切手 818円(82円切手9枚、10円切手8枚)
  • 特別代理となる資格
    特別代理人には、特別資格は必要ありません。本人や未成年者との間において、利益相反行為に利害関係がなければ、親族もなることができます。祖父母や叔父叔母などの親戚がなる場合が多いです。
    しかし「適当な候補者がいない。」「他の親族に口を出されたくない。」「時間がないから手続を迅速に済ませたい。」といった理由で法律の専門家である司法書士や弁護士などにお願いする方もいらっしゃいます。

05.申請後の流れ

家庭裁判所に特別代理人の選任について申請をした後、裁判所から特別代理人候補者へ回答書(照会書)が送付されます。照会書に対する回答を返送した後に、申立人に対して特別代理人選任審判書が送付されてきます。事案によっては、裁判所に出向いて質問に回答する審問の手続が行われる場合もあります。一般的には申請から2週間から1ヶ月程度で手続が終了いたします。

特別代理人が選任された後は、特別代理人が未成年者に代わり、相続放棄の手続を代理して申請いたします。このとき特別代理人は相続放棄申請書に特別代理人選任審判書を添付する必要があります。

Column 父母の一方のみと子の利益相反行為

たとえば、共同相続人である母親と子の関係においては、利益相反関係が生じているが、共同相続人でない父親と子の関係では利益相反が生じていない場合は、特別代理人の選任をする必要があるのでしょうか?

親権者たる父母の一方に民法第826条第1項にいう利益相反関係があるときは、利益相反関係のない親権者と同項の特別代理人とが共同して子のための代理行為をなすべきである。(最判昭和35.2.25)

子に対する法定代理権の行使は父母が共同してすることになっています(民法808条3項)。本事例に即すと、母親と子の関係において利益相反行為がありますので、共同で法定代理権を行使するためには、父親は母親の代わりに特別代理人の選任をする必要があり、父親と特別代理人が子のために手続を共同して代理することになりますので、ご注意ください。

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