民法改正

民法(相続法)改正|遺産分割前の預貯金の払戻しの仮払い制度

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預貯金の仮払い制度の創設

遺産分割前の預貯金の仮払い制度の創設

相続人による預貯金の払戻し手続き

被相続人が銀行等に預けている預貯金については、共同相続人全員の同意がなければ払戻しはできないとされている。しかし今回の改正によって、各相続人が単独で150万円を上限として、払戻しをすることができるようになった。

  1. 2つの仮払い制度
    ① 上限を150万円とする仮払い制度
    ② 家庭裁判所を利用した仮払い制度
  2. 施行期日と経過措置
    施行期日:2019年7月1日
    経過措置:施行日前に発生した相続であっても、施行日以降に払戻しを請求する場合にも適用される。

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  1. 遺産分割前の預貯金の払戻しの仮払い制度の趣旨
  2. 各相続人が単独ですることができる払戻し手続き
  3. 家庭裁判所を利用した仮払い手続き

1.分割前の預貯金の払戻しの仮払い制度の趣旨

被相続人が銀行等に預けている預貯金について、以前は各相続人が自己の法定相続分に応じた割合までは、払戻すことができる余地があった。しかし最高裁平成28年12月19日決定及び最高裁平成29年4月6日判決によって、普通預金や通常貯金、定期預金及び定期貯金など預貯金債権については、共同相続人全員の同意がなければ銀行等から払戻すことができないとされた。

 しかしながら被相続人の預貯金は、遺産として適切に分割される必要があるものの、一方で、残された相続人の生活費や被相続人の債務の弁済、被相続人の葬儀費用などに充当されるものでもあることから、相続人全員の同意がないと払戻しを受けることが不都合が指摘されていた。

預貯金の払戻し手続きは相続人全員の同意が必要

 そこで今回の改正では、遺産分割における公平性を確保しながらも、相続人の資金ニーズに対応できるように、2つの払い戻し制度が整備されることとなった。

2.各相続人が単独ですることができる払戻し手続き

 各相続人が相続した普通預貯金や定期預貯金について、各相続人は単独で以下の金額を上限として、各金融機関に払戻しを請求することができる。

払戻可能額の上限

次の①または②のいずれか少ない額
 ① 金融機関毎の普通預金と定期預金の合計額×1/3×法定相続分
 ② 150万円(法務省令で定められらた額で変更する場合がある。)

 以下の事例によると、配偶者が、銀行に対して、単独で払戻し手続きができる金額の上限は、A銀行では、①の計算式で求めた額が100万円であるので、①と②のいずれか少ない金額となるので、100万円である。一方でB銀行の場合、①の計算式で求めた額が250万円であるが、②の上限が150万円であるので、150万円となる。したがって配偶者は、A銀行から100万円、B銀行から150万円の合計250万円を単独で払戻し請求することができる。

各相続人が単独ですることができる払戻し手続き

 なお、B銀行において、配偶者は、普通預金と定期預金から合計で150万円を払戻し請求することができるが、どの口座からいくら払戻しするかは、相続人の判断に任せられることとなる。しかし普通預金に関して①の計算式によって、75万円が上限となることから、普通預金口座からこれを超過して請求することはできないと解される。

各金融機関での手続き

 各金融機関での手続きは、施行後間もないということもあり、まだ不明確な点が多い。金融資産のうち仮払いの対象となるのは普通預貯金・定期預貯金に限定される。投資信託等の金融商品について原則どおり相続人全員の同意が必要であると考えられる。

 また、金融機関に対しては手続きをする相続人の法定相続分を明らかにする必要があることから、戸籍一式(被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍)か法定相続情報証明書が必要となる。

POINT
  • 被相続人の預貯金の払戻し手続きには、原則として、戸籍謄本等の提出の他、相続人全員の実印による押印と印鑑証明書が必要である。
  • 相続人の生活費や被相続人の葬儀費用の支払いのために、各相続人がそれぞれ単独で金融機関に対して、相続する預貯金のうちの一部について限り、払戻し手続きをすることができるようになった。
  • 払戻可能額の上限は、①金融機関毎の普通預金と定期預貯金の合計額×3分の1×法定相続分か②150万円のいずれか少ない額である。

3.家庭裁判所を利用した仮払い手続き

被相続人が事業や会社を経営していたようなとき、被相続人の債務の弁済が高額であるであり相続財産からの支出が必要な場合がある。しかし上述の払戻し額では足りないことも考えられることから、これを超過した金額の仮払いができるように、家事事件手続法による保全処分の要件を緩和することとした。

保全処分の要件

以下の全ての要件を満たしているとき

  1. 遺産分割の調停手続きまたは審判の申立てをしていること
  2. 被相続人の債務の弁済または相続人の生活費の支払、その他の事情があるとき
  3. 他の共同相続人の利益を害さないこと

仮払い手続きの効果

 家庭裁判所の審判によって、預貯金債権の全部または一部を仮に取得させることができる。家庭裁判所が関与することで、さまざまな事情を汲んで決めることができるので、金額の上限は定められていない。しかしこの手続きは、上述の2の払戻し手続きとは異なり、あくまでも仮払いで取得することになるので、取得した財産は遺産分割の対象となることに注意が必要である。

POINT
  • 家庭裁判所を利用した仮払い手続きの場合、各金融機関から150万円を超過する額の払戻し手続きを行うことが可能である。
  • 家庭裁判所に対して遺産分割の調停手続または審判の申立てをしていることが要件であることに注意が必要である。
関連情報

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改正条文

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)

第909条の2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令

民法(明治29年法律第89号)第909条の2の規定に基づき、同条に規定する法務省令で定める額を定める省令を次のように定める。

民法第909条の2に規定する法務省令で定める額は、150万円とする。

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