相続登記(名義変更)手続きには期限はあるのか
被相続人名義の不動産について、相続登記(名義変更)はいつまでにするのがよいのでしょうか。相続人間の遺産分割協議で揉めていないのであれば、速やかに変更手続きをするのが望ましいです。特に相続不動産を売却したり、それを担保にして銀行からお金を借りたりするような場合には、早期に登記手続きをしないと、手続きが滞ってしまうことが少なくありません。
Menu
- 相続登記には手続きの期限が定められていない
- 相続が複雑になり、遺産分割協議が困難になる
- 相続登記をしないと売却したり、担保に入れたりすることができない
- 他の相続人が不動産を勝手に処分するおそれもある
1.不動産登記の対抗力
2.遺産分割と不動産登記
相続登記には手続きの期限が定められていない
相続税は相続開始時から10ヶ月以内に申告する必要があるため、その時までに遺産分割協議を終了させておくことが望ましいとされています。そして遺産分割協議が終了後速やかに、不動産の登記(名義変更)手続きをしておくことをお勧めします。もちろん相続税の申告が不要な方や相続不動産を取得する者が決まっている場合には、前倒しに手続きをしておいてください。
相続や遺産分割による不動産の登記手続きには、特に期限が定められているわけではありません。いつでも名義変更をすることもできますし、売却や次の相続が発生するなど手続きをする必要性が発生するまで手続きをしないということもできます。
しかし相続が発生してから相当な期間、登記手続きをしないでほっておくと様々なトラブルが生じる恐れがあるということは知っておいてください。
<POINT>
- 相続登記(名義変更)の手続きには、期限が定められていない。
- しかし思わぬトラブルを回避するためにも速やかな相続登記手続きが望まれる。
相続が複雑になり、遺産分割協議が困難になる
遺産分割協議は、被相続人が亡くなり相続が発生した後、法定相続人全員で話し合って決めるものです。この遺産分割協議の話し合いの最中に、相続人のうちの一人が亡くなってしまった場合には、亡くなった相続人の相続人が、法定相続人全員の話し合いに参加して協議することになります。
たとえば、被相続人甲の法定相続人がAとBだけでしたので、遺産分割協議は2人で話し合いをすれば手続きを進めることができます。しかし遺産分割協議をしないままに、相続人であったBが亡くなってしまいました。この場合、被相続人甲の遺産分割協議には、AとC、D、Yの4人が参加して手続きをする必要があります。遺産分割協議には参加者全員の合意が必要ですので、参加する当事者が増えることも親戚付き合いの少ない親族と話し合いをすることも、遺産分割協議の成立を一層困難にさせることになります。
また、相続人Aが認知症になってしまったような場合には、Aのために成年後見人を選任する必要が発生するかもしれませんし、亡Bの子であるCとDが未成年者である場合には、子CとDのために特別代理人の選任が必要となることも考えられます。このように長期間手続きをしないで放置をしていると、かえって手間もかかるし手続きも複雑になり、時間や費用などの負担が増えることにつながります。
<POINT>
- 相続があってから長い間相続登記を怠っていると、遺産分割をしようと思っても話し合いをする相手となる相続人が代替わりしている場合などもあり、手間も時間も費用の負担が増えることになります。
相続登記をしないと売却したり、担保に入れたりすることができない
被相続人名義の不動産を売却したり、担保に入れたりするには、あらかじめ相続人名義に変更しなければなりません。このとき上記のように遺産分割協議をするのに、時間を要してしまうと、売却や金銭の借入の手続きが滞ってしまいます。また、相続不動産を共有名義にしている場合には、相続不動産を売却したり担保に入れたりするのには、すべての名義人の同意が必要になります。
相続開始時から長いこと時間が経過した後に、相続不動産の売却等によって名義変更が必要となったときに、慌てて遺産分割の手続きをしようと考えても、手続きに時間や費用の負担が増えるだけでなく、他の相続人の意向次第では、売却等をすることが困難になってしまいます。
たとえ遺産分割について反対している相続人が、多数いる相続人のうち相続分がわずかしかない一人であっても、その意向を無視して手続きをすることはできません。もちろん相続人間で遺産分割協議が成立しなかった場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申立を行い、費用と時間がかければ解決することは可能です。しかし相続開始時に手続きを名義変更の手続きを済ませておけば、家庭裁判所の関与が必要な事態を回避することはできたかもしれません。
<POINT>
- 登記名義を遺産分割協議で単独名義に変更するには、相続人全員の合意がなければすることができません。登記名義を共有名義にしている不動産を売却するには、共有名義になっている相続人全員の同意が必要です。
- 相続人間での遺産分割が不調に終わった場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停の申立をすることができますが、時間と費用を要することになります。
他の相続人が相続不動産を勝手に処分することもある
相続不動産の登記(名義変更)手続きをしないでいると、他の相続人が相続不動産の法定相続分に応じた持分を第三者に売却してしまい、相続不動産全体の所有権を失う場合もあります。
不動産登記の対抗力
不動産登記には、第三者対抗力が認められています。対抗力とは不動産登記をすることで所有権などの権利を第三者に法的に主張できることをいいます。たとえば、不動産を所有する者甲が当該不動産をAに売却したとします。その後Aが名義変更手続きを怠っているうちに、甲は当該不動産が未だ甲名義であることを利用して、当該不動産をBに売却し、二重に譲渡したとします。このとき当該不動産の所有権はAとBで先に不動産登記をして名義変更した方が取得することができます。
不動産登記と遺産分割
相続の場面でも、二重譲渡と同じような事態が生じる場合があります。
たとえば、被相続人甲の死亡により相続人AとBが相続不動産を共同相続し、その後、遺産分割によってAが相続不動産を取得することになりました。しかしAが単独名義での相続登記する前に、Bが相続不動産について法定相続分での共有名義とする相続登記を行い、Bの持分を第三者Xに売却し、登記を完了させました。このときAは第三者Xに所有権の全部について対抗することはできなく、相続不動産はAとXの共有名義となってしまいます。
これはBが勝手に相続不動産を売却してしまった場合だけでなく、相続人Bの債権者Yが、相続不動産のBの持分について差押をした場合にも、同じ結論となり、相続不動産はAとBの共有名義となり、Bの持分には債権者Yの差押が入った状態となってしまいます。
<POINT>
- 遺産分割協議で単独相続することになっていたとしても、登記(名義変更)手続きを怠ると所有権の一部を失う事態も生じ得ます。
≫ 不動産の相続登記(名義変更)手続のよくある質問 TOPへ戻る
あわせて知りたい
⇒ 相続手続 遺産調査と分割、名義変更、税務手続編
⇒ 亡父親名義の不動産。誰の名義に変更するのがよいですか?
⇒ 音信不通の相続人がいる場合の相続手続
⇒ 相続人が認知症になってしまった場合の相続手続
⇒ 遺産分割の終了前に相続人が亡くなってしまった場合の手続き(数次相続)
⇒ 相続登記の必要書類