相続放棄をしても
原則、死亡退職金を受取ることができる
相続放棄をすると、相続のときから、相続人ではなくなりますので、被相続人の財産を一切承継取得することができません。しかし被相続人が亡くなったことで、発生した死亡退職金は、相続放棄をした相続人でも、原則、受け取ることができます。
1.相続における死亡退職金の取り扱い
相続放棄をした相続人が、死亡退職金を受取れるかどうかは、法律や就業規則で死亡退職金の受取者として誰を指定されているによって異なります。法律や就業規則で、死亡退職金の受取権者として、具体的に特定の遺族などが指定されている場合には、その受取人は、死亡退職金を、相続とは別に取得することができます。
2.就業規則で受取人として本人以外の者を具体的に定めている場合
就業規則等によって、死亡退職金を請求できる者を、被相続人以外の具体的な者を定めている場合には、その死亡退職金の請求権は、遺族の生活保障を目的とし、民法で定める相続とは別の立場で受給権者を定めたものであり、受取人は相続人としでなく、独自で取得した固有の権利として取得するものと考えられています。(最判昭和55年11月27日)
そして多くの会社の退職金支給に関する就業規則では、請求できる遺族の範囲と順序を労働基準法施行規則第42条から45条までの定めに従って支給すると規定されています。同規則42条では、請求できる者として、配偶者(事実上の婚姻関係を含む)と被相続人の収入よって生活を維持していた子、父母、孫、祖父母と定めています。
このように、就業規則などで死亡退職金の受取人を本人以外の特定の者を具体的に定めている場合には、死亡退職金は相続財産には含まれませんので、相続放棄をしたとしても受取ることができます。
なお、被相続人が国家公務員の場合には、国家公務員退職手当法に基づき、特定の遺族に対して死亡退職金が支給されることになりますので、受取人の固有の財産として退職金を受取ることができます。
3.例外的に死亡退職金が相続財産に含まれる場合
死亡退職金の受け取りに関する規定がない場合や就業規則によって本人(被相続人)が受取人と定められている場合には、死亡退職金も相続財産として扱われることがあります。
特に、死亡退職金制度はあるが、受取人に関する規定が全くない場合は、死亡退職金が相続財産に含まれるとする見解と、それとも相続人の固有財産として取得するとの見解が分かれていて、実務上も明確な判断基準がなく取り扱いが難しいです。
しかしながら死亡退職金は遺族の生活保障が目的であるという観点に着目すれば、相続という関係を離れて、受取人が独自に取得した権利であるとして、相続財産に含まれないとする考え方が有力といわれています。
具体的な裁判例とすると、死亡退職金の支給規程のない財団法人において理事長の死亡後に、その者に対する死亡退職金として支給する旨の決定をし、その配偶者に支払われた退職金は、特段の事情のない限り、相続財産に属するものではなく、配偶者個人に属するものと認めるべきと判断した事案があります。(最判昭和62年3月3日)
また、めったにありませんが、規定によって受取人を本人(被相続人)としている場合には、死亡退職金は相続財産に組み入れられることになり、死亡退職金を請求した者は相続放棄をすることはできなくなりますので、注意が必要です。
4.退職後の未払い退職金の取り扱い
被相続人が生前に会社等を退職していて、既に退職金を受取る権利を取得していた場合、未払いの退職金は相続財産に含まれることになります。
この場合の退職金を請求する権利は、被相続人は生前に退職していますので、死亡を原因として発生した死亡退職金請求権ではなく、退職を原因として発生した退職金に関するものとなります。被相続人は生前に既に退職金請求権を取得していますので、この請求権は相続財産に含まれる権利となります。
よって、相続放棄をした者は、被相続人の遺産を承継することはできませんので、相続財産である退職金を受取ることはできません。
なお、この退職金請求権は、金銭債権ですので、遺産分割することなく、相続人が各自の相続分に応じて、請求権を取得することができます。しかし退職金を支給する会社は相続人全員からの請求がないと支給しないとする規定がある場合もあるので、相談のうえ請求して下さい。
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