相続と遺言

相続放棄と相続財産の管理責任

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相続放棄と相続財産の管理責任
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相続放棄をしても次の相続人が引き継ぐまで
相続財産の管理責任は残る

相続放棄をすると、相続の時から相続人となる資格を失います。被相続人の預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく借金などの相続債務についても承継されませんので、その借金を返済する責任を負うことはありません。しかし遺産を保存・管理する義務については、他の共同相続人や次の順位の相続人が遺産の管理を開始するまで、免れることはできません。特に遺産が建物や土地などの不動産である場合には、その保存や修理などの維持費や手間について大きな負担となりがちですので注意が必要です。

 1.相続放棄をした相続人の相続財産の管理責任

民法では、相続人による相続財産の管理責任を次のように定めています。

『相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。(民法第918条)』

この条文だけで判断すると、相続の放棄をした場合には、相続財産の管理責任も放棄ができそうに考えられます。

しかし、法律では相続放棄した相続人の責任として、次のように規定しています。

『相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。(民法第940条)』

相続放棄をした相続人は、相続財産の管理責任を負わないのが原則なのですが、共同相続人や次順位の相続人が、現実に相続財産の管理を開始するまでの間についてだけ、管理する責任が継続することになります。管理責任が継続するということは、維持のためのメンテナンスをすることや費用の負担をすることはもちろん、財産の適切な管理を怠ったことが原因で、他に損害を生じさせたときには、その損害賠償の責任も負うことになります。

たとえば遺産が一戸建てであるようなとき、庭木が生い茂り隣地に迷惑を掛けているような場合には、伐採等のメンテナンスを行う必要がありますし、老朽化した建物が倒壊する恐れがある場合には、建物補強工事をする必要もあります。さらに建物の維持管理を怠ったことが原因で、隣地に駐車してある自動車を損壊してしまった場合には、車の修理費等の損害を賠償する責任を負うことになります。

2.管理責任の継続と相続財産管理人

相続放棄をした者の管理責任は、新しい管理者に引き継ぐまで続くことになります。速やかに、他方の共同相続人や次順位の相続人が相続を承認し、財産管理を始めてくれれば問題はありません。しかし相続人が相続放棄をする事案の場合、金銭価値のある財産が少なかったり、またはプラスの財産よりも借金などのマイナスの財産が多かったりすることが多く、共同相続人や次順位以降の相続人もまた相続放棄をすることがあります。相続放棄をした相続人の管理責任は、全ての相続人が相続放棄をして、相続権のある相続人がいなくなったとしても、あくまでも新しく管理をする者がでてくるまで、続くことになります。

それでは、全ての相続人が相続放棄などをして相続人が全くいなくなったときは、どうすれば良いのでしょうか。民法では次のような規定があり、相続人が不存在のときには、相続財産管理人を相続財産の管理者として選任できるとしています。

『相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。(民法第951条)』

『前条(相続財産が法人となった)の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。(民法第952条)』

民法第951条で定める『相続人のあることが明らかでないとき』には、相続人全員が相続放棄をした場合も含まれると解釈されています。利害関係人等は、相続財産を法人化するために家庭裁判所に申立をし、その法人の管理業務を担う相続財産管理人を選任してもらうことができます。家庭裁判所が相続財産管理人を選任すると、相続財産の管理は相続財産管理人が行うことになるので、相続放棄をした者は、相続財産管理人に対して、財産を引き継ぐことで、やっと相続財産の管理責任を放棄することができます。

3.相続財産の管理のために支出した費用の請求

相続放棄をした者が次順位の相続人や新しい管理者に引き継ぐまでの間に負担した修理費や管理費については、相続財産を引き継ぐ者に請求できるとしています。

次順位の相続人や共同相続人が相続したのであれば、その者に請求することができます。また、相続人が不存在として相続財産管理人が選任されている場合には、相続債権者として相続財産の清算手続きに参加し、費用を請求できるとしています。

4.相続財産管理人を選任するときの費用の負担

相続財産管理人の選任を請求できる利害関係人には、相続財産の管理義務を免れることができていない相続放棄をした者も含まれますので、家庭裁判所に申立をすることは可能です。しかし相続財産管理人が相続財産の換価等の処分の手続に要する期間は1年以上になるため、そのための予納金は相当な金額となり、遺産の内容によって異なりますが、30万円~100万円程度必要と言われています。そしてその予納金の負担は、申立者が負担することになります。相続財産に資産価値があり、相続債務を差し引き清算した後も、金銭が残るのであればその清算手続を通じて、申立に要した予納金は返還されることになります。しかし一方、相続財産に資産価値がないようなときは、換価等の処分によって得られる金銭が少なくなり清算するとマイナスになることもあります。その場合には、予納金から清算のための費用が充当されることになりますので、予納金のほとんどが返還がされないこともありえます。最終的には申立人が予納金を含めた費用を全額負担する可能性もありますので、申立にはそのあたりの事情を踏まえて検討することが必要です。

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