相続と遺言

相続放棄と年金の受取り

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
相続放棄と年金の受取り
Pocket

相続放棄しても遺族年金を受取れる

相続放棄をすると、初めから相続人ではなくなりますので、被相続人の遺産を一切承継することはできません。しかし遺族年金は、相続財産には含まれませんので、相続放棄をした人でも、被相続人の遺族年金を受取ることができます。

1.遺族年金は相続財産に含まれない

遺族年金とは、被相続人が加入していた国民年金や厚生年金に基づき、被相続人が亡くなったときに、残された遺族に対して支給される年金のことです。そして被相続人が国民年金に加入していたときは、遺族基礎年金を受取ることができます。また、被相続人が厚生年金に加入していたときは、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類の年金を受取ることができます。そして遺族年金の受給者は次のとおり定められています。

遺族基礎年金

遺族基礎年金を受取ることができる者は、死亡した者の収入によって生活が維持されていた「子のいる配偶者」又は「子」です。なお、ここでの子とは、18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子をいいます。そして配偶者には事実婚の相手方を含みます。受給者の詳細の要件はこちらを参照ください。

遺族厚生年金

遺族厚生年金を受取ることができる者は、死亡した者の収入によって生活が維持されていた「妻」「子、孫」、「55歳以上の夫、父母、祖父母」で、支給の順位が定められています。妻は、事実婚の相手方を含み、「子のいない妻」でも支給されます。子は、遺族基礎年金と同様に18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子に対して支給されます。受給者の詳細の要件はこちらを参照ください。

2.遺族年金は、遺族が独自で取得した権利に基づき、受給されるもの

遺族年金は、残された遺族である受給者の生活保証を趣旨として設けられている制度ですので、相続放棄をしたことによって、遺族年金受給する権利まで失うことになると、遺族にとって、とても厳しい結果になってしまいます。また、遺族年金の受給者の範囲は、相続時の法定相続人の範囲とは異なり、法律的に婚姻関係にない妻にも受給する権利があり、一方、成人した子どもには受給権がありません。裁判では、遺族年金の受給権と法定相続の範囲に着目をして、年金法は相続法とは別個の立場から受給権者と支給方法を定めたものとみられ、遺族年金は遺族の固有の権利に基づくもので、相続財産には含まれないと判断しています。(大阪家裁審昭和59年4月1日)

3.未支給年金を請求しても相続放棄できる

未支給年金は相続財産に含まれないので、相続放棄をしようとする人も、相続放棄をした人も、未支給の年金を請求し、支給をうけることができます。

未支給年金とは、被相続人が生前に受けとるはずの年金のこと

未支給年金とは、被相続人が生前に受取るはずであった支給を受けていない年金のことをいいます。未支給年金は、請求しないと受取れない、後払いで支給されるという公的年金の仕組み上、どうしても発生してしまうものです。

たとえば、公的年金は、原則的に年に6回、偶数月に2ヶ月分支払われるのですが、8月に支給された年金は、6月分、7月分のものとなります。被相続人が9月1日に亡くなったときは、8月分の年金として10月に支給される予定のものが、未支給年金となります。また、65歳の誕生日を迎えて受給要件が整ったにもかかわらず、暫く請求しないうちに亡くなってしまった場合にも未支給年金が発生することになります。

この未支給年金は、老齢年金だけに限らず、障害年金や遺族年金を受け取っていた方が亡くなった場合にも発生します。なお、未支給年金は遺族年金ではありませんので、遺族年金の請求とは別に請求する必要があります。

未支給年金も、遺族が取得する相続財産に含まれない

未支給年金は、生前に被相続人が持っていた権利で、本来なら被相続人に対して支給される年金です。遺族年金とは異なり、被相続人の死亡後に発生した請求権ではありませんので、相続財産に含まれていると考えられそうです。

しかし未支給の年金を受取ることができる遺族の範囲は、死亡した被相続人の収入によって生活が維持されていた配偶者、子、父母、祖父母、兄弟姉妹、その他の親族としており、受給する権利のある遺族は自己の名義で、未支給の年金を請求することができるとしています。受給者の詳細の要件はこちらを参照ください。

裁判では、上記のように未支給年金を請求できる遺族の範囲が、相続における法定相続の範囲とは異なり、法によって別の定めがあることから、未支給年金制度は、相続とは別の制度であり、死亡した被相続人が有していた年金に関する請求権が、相続の対象となるものではないと判断しています。(最判平成7年11月7日)

よって、未支給年金は、相続財産の対象となりませんので、たとえ相続放棄をしても、未支給年金を受取ることができます。

Pocket

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

  1. ピンバック: 相続放棄と相続税

コメントを残す

*