債権の消滅時効の期間が原則5年間に短縮
1.債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点
ポイント
- 時効期間を原則5年間とし、権利行使できるときから10年間とする客観的起算点は現行を維持しました。
- 職業別の短期消滅時効等は廃止しました。併せて商事消滅時効(商法522条)も廃止します。
理由
- 時効期間を統一する必要性があったため。民事、商事の区別もなくなります。
- 債権者が権利を行使できることを「知ったとき」から「5年間」行使しないときに時効によって消滅する。⇒主観的起算点
- 「権利を行使できるとき」から「10年間」行使しないときに時効で消滅する。⇒客観的起算点
実務への影響
- 債権者の多くは、権利を行使することができるときにそのことを知ったといえるので、債権の消滅時効は5年間となる場合がほとんどです。今まで10年間であったので、従来の半分の期間で債権は消滅することになります。
- 企業などの事業者は商事消滅時効で元から5年間の適用を受けていたので、大きな影響はないと考えられます。
- 客観的起算点と主観的起算点とが異なることとなるケースは、「不確定期限付き債権」「条件付き債権」「契約に基づく債務不履行の損害賠償請求権」が考えられます。
2.不法行為などによる損害賠償請求権の消滅時効
ポイント
- 不法行為の「20年間」は除斥期間から消滅時効期間と改めます。
- 人の生命又は身体を害する「不法行為」による損害賠償請求権の消滅時効を「知ったとき」から「5年間」に延長する。
- 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効を「権利行使できるとき」から「20年間」行使しないときに消滅することとします。
理由
- 判例(最判平成元年12月21日)により除斥期間としての期間制限の性質を定めていたが、著しく正義・公平の理念に反する場合もあるという問題が生じていたことから、消滅時効とすることで被害者救済を図ったものです。
- 生命や身体は重要な法益であることから、これらが侵害されたことに基づく損害賠償請求権については、権利行使の機会を保護する必要性が高いことから、長期の消滅時効期間を新たに設けました。
実務への影響
- 除斥期間から消滅時効期間と改められることから、時効の完成猶予や更新が可能となります。
- 不法行為に基づく損害賠償請求権は長期化(3年⇒5年)し、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は短期化(10年⇒5年)することになります。
- 生命・身体が侵害されたことに基づく損害賠償請求権については、不法行為による場合だけではなく、債務不履行による場合であっても「20年間」が適用されます。
3.時効の完成猶予及び更新
ポイント
- 現行民法の「時効の停止」が「時効の完成猶予」に、「時効の中断」が「時効の更新」に変更されます。
- 訴えの取下げ等の効力を明確にし、訴えなどの手続き中は「完成猶予」となります。仮差押などの保全処分も「完成猶予」となります。
- 天災等による時効の完成猶予は「2週間」から「3ヶ月間」に延長します。
- 協議による時効の完成猶予制度を新たに創設され、原則1年間、最大でも5年間、時効の完成が猶予され、書面ですることで必要です。
理由
- 時効の完成猶予事由を①裁判上の請求等、②強制執行等、③仮差押え等、④催告、⑤天災等、⑥協議を行う合意、に整理し疑義のあったものを明確化しました。
- 時効の更新事由を①裁判上の請求等の確定判決等、②強制執行等、③承認、に整理し疑義のあったものを明確化しました。
- 協議継続中は、権利者が権利行使を怠っているとはいえないし、義務者も権利者が強硬な手段に出ないだろうと期待している。時効中断を目的とする訴訟を採る必要がないように、協議によって時効完成を回避する手段として、設けられた。
実務への影響
- 時効の完成猶予及び更新事由については、概ね判例法理を踏まえて規定を整理したものであるので、大きな影響は少ないと思われる。
- 債務者が承認はできないが、債権内容について協議には応じるというときに書面で合意すれば、完成猶予の効果が生じることになるので、債権管理のあらたな手法として、どのように活用するかが重要。
【改正法(新条文)】
(時効の援用)
第145条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第147条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
第148条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
(仮差押え等による時効の完成猶予)
第149条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分
(催告による時効の完成猶予)
第150条 催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第151条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から1年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
4 第1項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
5 前項の規定は、第1項第三号の通知について準用する。
(承認による時効の更新)
第152条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)
第153条 第147条又は第148条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
2 第149条から第151条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
3 前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
第154条 第148条第1項各号又は第149条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第148条又は第149条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。
第155条から第157条まで 削除
(天災等による時効の完成猶予)
第161条 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため第147条第1項各号又は第148条第1項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から3箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
第167条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第二号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。
(定期金債権の消滅時効)
第168条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないとき。
(判決で確定した権利の消滅時効)
第169条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
(短期消滅時効)
第170条から第174条まで 削除