残された家族のために遺言書を残す方が増えています。しかし中途半端な知識で遺言書を残してかえって家族が揉めるケースも!遺言書を書く前に知ってもらいたい7つのポイントをまとめてみました。
最近、自分が死んだ後のことを考えて遺言書やエンディングノートを作成する方が増えています。遺言書は書き方を間違えると遺言として効力が発生しないこともありますし、記載されている内容が不明確であると、かえって相続人間で揉める原因にもなってしまいます。ここでは残された家族が安心するような遺言書の作成方法についてお伝えします。
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01.遺言書ってなに?
遺言があれば、死んだ後も、その人の最終意思を実現できます。
人は死んだ後は、残された家族に大事なことを伝えたりすることも、自分の財産を大切な人に譲ったりすることはできませんよね。しかし『遺言』を残すことによって自分が死んだ後も自分の最終意思を尊重して、自分の財産の処分等を自由にすることができるようにするための、民法で定められた法律行為なのです。
そして遺言を書面に書き残してものを遺言書とか遺言状とかいいます。
遺言とは、法律で定められた事項を法律で定められた方式で作成されることで、効力が発生するものです。
『遺言』の効力発生は本人が死んだ後なので、その遺言書に残した意思が本当であるかどうか本人に確かめることもできませんし、他の人による偽造や改変される恐れもあるので、その作成方法は法律に基づいて定められているとともに、法律的に効力が発生する事項についても同様に法律で定められています。
つまり法律で定められた事項を正しい作成方法で遺言書に残さないと、その遺言書は法律的な効力が発生しないので、本人の気持ちだけを伝える手紙となってしまうのです。
例えば遺言で「自宅を妻と長男に2分の1ずつ相続させる。」などの相続の方法を定めることはできますが、「長男がペットの犬の世話をすること」や「葬式は家族葬とし、派手にしないこと」などは法律で定められた事項に当たりませんので、遺言書で残しても気持ちは伝わりますが、法律的には効力は発生しません。また、作成方法ということでは、遺言書には「日付」を書くことが必須なのですが、これを忘れてしまうと遺言が無効となってしまう恐れがあります。
02.エンディングノートとは何が違うの?
遺言書は亡くなってから、効力が発生するもの。エンディングノートは「もしものとき」に備えるもの。
市販のエンディングノートの内容を見てみると、その内容は多岐に渡っているといえます。エンディングノートは、遺言書のように「死亡」というタイミングだけでなく、生きている間に寝たきりや認知症になったときのような「もしものとき」も考えているからです。この「もしものとき」に備えて自分自身の情報や希望をまとめるのがエンディングノートといえそうです。
万一の際に、連絡をしてもらいたい親族や親しい友人のリストや病気のときの治療の方針や自宅にいるペットの世話の方法なども記入する欄もあるそうです。そしてエンディングノートが自分の感謝の気持ちを残された家族に伝えるため、残された家族が自分の死後の後片付けで苦労しないようにするためなどに活用されていると聞いております。
ではエンディングノートのなかで「私の財産は誰々に譲る。」との記載があった場合はどのようになるのでしょうか。その作成方法が法律的に定められた方式に従っているときは、遺言書と同様に法律的な効果が発生することになります。
しかしエンディングノートには本人の気持ちだとか、感想だとか、希望だとかいろいろなことが書き留められていますので、そうすると法律的に効力を発生してもらいたいと考える大切なことを書かれた箇所が、本人の最終意思かどうか分からなくなることもあり、結果として法律的効果を認めてもらえなくなる場合も少なくありません。
よって本当に大事なことは遺言書に残すことをお勧めします。
03.遺言書にはどんな種類があるの?
民法に規定されている遺言の数は7種類。よく利用されるのは自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです。
民法で定められている遺言の方式は、大きく分けて、普通の方式と特別の方式とがあります。特別の方式は死亡の危急が迫った者などがする遺言等で、かなり特殊な事案となることから、ここでは説明を省きます。一方、普通の方式による遺言は次の三種類あるので、それぞれ長所、短所を比較しながら簡単に説明をしていきましょう。
紙と鉛筆と朱肉があれば作成できる自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言する本人が遺言書の全文、日付及び氏名を自ら署名し、これに押印することによって成立する遺言です。
最も簡便な方式であり、証人の立会いや公証人の介在が不要であるので、いつでも費用をかけずに作成することができます。
しかしその反面、遺言書の作成の方式に沿わないで作成したため遺言が無効となることや内容に疑義が生じることも多く、のちのち争いになることも少なくありません。また遺言書自体が紛失したり、保管場所が不明であったりなどの理由で、遺産相続の必要なときに家族が見つけることができないで、相続手続きが完了した後に発見されて、相続手続きをやり直すということもあります。
公証人という法律の専門家が介在して作成する公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言をする本人が遺言する内容を公証人の面前で述べて、その内容を公証人が筆記する方式の遺言です。
遺言をする人は2人以上の証人を伴って公証人役場に行くか、公証人に出向いてもらう必要があります。遺言の内容については事前に公証人とも打ち合わせするなどの事前準備が必要ですし、相続する人の数や財産の価額に応じて費用の負担も必要となります。また、遺言の内容を第三者に聞かれてしまうという気持ちの面での抵抗も少なくありません。
しかし公証人が介在することで、遺言の内容を適切に修正してくれますし、遺言の方式に反するような書き方をすることはないので、遺言書が無効となるようなことや遺言書の内容について疑義が生じて後日争いになるようなことは少なくなります。さらに遺言書の原本を公証役場が保管することになるので、紛失や改変のおそれがなく、相続開始後の家庭裁判所による遺言書の検認手続きをも不要となるメリットあります。
遺言の内容をワープロ等で作成することができる秘密証書遺言
秘密証書遺言は、まず遺言をする人が、本人または司法書士や弁護士などの第三者が作成した遺言書に自ら署名押印し、市販の封筒などを用いて封をする。次に、遺言する人は、遺言書入りの封筒と2人以上の証人を伴って公証役場を訪れ、そこで自己の遺言書であることを述べたうえで、遺言する人、証人、公証人全員でその封筒に署名押印することで成立します。
公証役場ではあくまでも遺言書であることを述べるだけなので、遺言書の内容については証人などの第三者に知られることもないですし、遺言書の作成も司法書士や弁護士などに委託することもできますし、ワープロ等による印刷も可能です。
但し、遺言書の保管は公証役場ではしてくれませんので、自分でする必要がありますので、紛失や保管場所不明のリスクはあります。費用は公正証書遺言と比べて安価でありますが、証人2人が必要であったり、公証役場を訪問したり、やや手間ひまがかかります。
04.結局どの方式で作成するのがいいのか?
手軽さや費用面では自筆証書遺言に軍配。でも安全性は公正証書遺言!
それぞれの方式での長所短所を踏まえると以下のとおりではないでしょうか?
手軽さ 自筆証書 >>> 秘密証書 > 公正証書
費用 自筆証書 > 秘密証書 > 公正証書
安全性(後々揉めない) 公正証書 >> 秘密証書 >> 自筆証書
手軽さと費用面では圧倒的に自筆証書遺言が有利といえますが、その分「発見されない。」「遺言の方式に反するような書き方で作成して無効となる。」などの安全性に劣ります。
一方、公正証書遺言は、費用面や手軽さという面では劣りますが、公証人という専門家を介在させることで、安全性は格段に高まるといえます。秘密証書遺言はそれぞれの良いとこ取りと言えそうですが、むしろ一番中途半端であまり利用されていないのが実情です。
どの方式を採用しても、法律の専門家が係わったほうが一番
ここで遺言書を作成する目的を改めて考えてみましょう。多くの方が「残された家族が相続で揉めることがないようにしたい。」「自分か築いた財産を、自分の意思で分配したい。」「一部の相続人に対して、他のものより多く遺贈したい、又は特定の財産を譲りたい。」ということなどを考えて、遺言書を作成しているようです。これを踏まえて、どの方式で遺言書を作成するといいかを考えると、費用面の優先順位は低くなり、安全性や確実性といった側面を重視することが望ましいのではないでしょうか。
それには、公証人という法律の専門家が介在する公正証書遺言で作成することも一つの方法といえます。その他にも司法書士や弁護士などの法律家に遺言書の文案を作成してもらい、その内容を自筆証書遺言又は秘密証書遺言などの方式で書き残すことも考えられます。もちろんその場合には、遺言書が見つからないというような事態を避けるべく、準備をしておく必要があります。たとえば、遺言書を作成したことを家族に話しておく、もしくは作成に携わった法律の専門家に預けるということも可能です。
05.遺言書に書くことができる事項
遺言書に書くことで法律的な効力が発生する事項とは?
遺言書は死後に自分の意思表示をすることが認められた特別な法律行為ですので、遺言書に記載することで法律的な効力が発生する事項も、法律で厳格に定められています。もちろん付言事項として法律で定められていない事項を残すことも可能ですが、法律的な効力は発生しません。
遺言事項は次のとおりです。
- 相続分の指定・指定の委託
- 遺産の分割の方法の指定・指定の委託・遺産分割の禁止
- 包括遺贈・特定遺贈
- 遺言執行者の指定
- 共同相続人間の担保責任の定め
- 遺贈の減殺の割合
- 推定相続人の廃除・推定相続人の廃除の取消し
- 特別受益者の相続分
- 認知
- 未成年後見人の指定・未成年後見監督人の指定
- 一般財団法人の設立の意思表示・財産の拠出
- 信託
- 祭祀承継者の指定
最近は遺言事項に加えて付言事項を活用することが増えてます。
法律的に効力が発生する事項ではないのですが、家族への最後のメッセージとして「兄弟仲良く暮らしてももらいたい。」「葬儀は家族葬にしてもらいたい。」などの事項を付言事項として書くことができます。最近では、付言事項になぜこのような遺産の配分をしたかなどの経緯を記し、将来、家族間で揉めないように考えて、付言事項を活用される方も多いようです。
06.自筆証書遺言の書き方
ここでは遺言書の基本といえる自筆証書遺言の書き方を説明します。自筆証書遺言と他の方式の遺言では、自筆なのか、ワープロ作成が可能なのか、署名押印が必要なのか不要なのかなど、作成方法において多少の違いがありますが、そのほかについては大きな違いはありません。
自筆証書遺言を作成するうえでのルール
- 全文自筆で書かないといけません。
ワープロ等を使用することはできません。 - 日付と氏名を書かないといけません。
日付は具体的に書く必要があり、「平成27年7月吉日」などという書き方は認められていません。 - 必ず印鑑を押してください。
印鑑は実印、認印や三文判でもいずれでもよいです。拇印でもよいとされています。しかしのちのち揉めることになりますので、できるかぎり実印で押印することが望ましいです。 - 訂正するときは気をつけて
遺言の内容について誤字脱字などの間違いがあるときには、その訂正については、訂正箇所に2本線で抹消し、その脇に正しい字句を記入し、押印をする。さらに訂正箇所の欄外に訂正箇所と字数を記入して、訂正した字数の脇に署名することが必要です。
上記は自筆証書遺言が有効となるための要件ですので、必ず守る必要があります。
以下のルールは遺言書が改ざんや加筆等されないようにするための工夫です。
- 遺言が複数の紙に渡って作成するときは、契印(複数の紙を重ねて割り印する方法です。)をして下さい。
- 封筒に入れて、封を閉じ、割り印を押しておいて下さい。
- 表面には遺言書在中と書いておいて下さい。
- 裏面には、自分が亡くなった後のことを考えて次のようなことを書いて捺印をしておくと良いでしょう。「開封を禁ずる。この遺言書を、遺言者の死後遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を受けること。平成○年○月○日 遺言者 ●●
07.自筆証書遺言の文例
甲山一郎さんが妻と長男と長男の妻に対して残した遺言例
遺言書
遺言者 甲山一郎は次のとおり遺言する。
1.妻 甲山和美には次の財産を相続させる。
(1)土地
所在 東京都中央区銀座7丁目
地番 3番333
地目 宅地
地積 50.67㎡
(2)建物
所在 東京都中央区銀座7丁目3番333
家屋番号 3番333の1
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造3階建
床面積 1階 40.87㎡
2階 40.87㎡
3階 25.87㎡
(3)上記家屋にある家財道具その他一切の動産
2.長男 甲山太郎には次の財産を相続させる。
(1)預貯金
金融機関 うめさくら銀行 銀座支店
種 類 普通預金
口座番号 12345678
名 義 人 甲山一郎
(2)株式
株式会社甲山商店株式 1000株
3.長男の妻 甲山正子には次の財産を遺贈する。
(1)次の口座にある預貯金のうちの100万円
金融機関 すいせん銀行 銀座支店
種 類 普通預金
口座番号 9812345
名 義 人 甲山一郎
4.上記までに記載した以外のその他一切の財産(動産・預貯金を含む)を、妻 甲山和美に相続させる。
(付言事項)
この遺言は生前苦労をかけた妻 甲山和美と介護で世話になった長男の妻 甲山正子に対して感謝の意を込めて考えました。いつまでも家族仲良く暮らしてください。なお、葬儀は家族葬として盛大にする必要はない。
平成27年8月14日 遺言者 甲山太郎 印
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