債務不履行による損害賠償の要件を明確化
1.債務不履行による損害賠償とその免責事由
ポイント
- 債務不履行及び履行不能によって生じた損害賠償を請求について、債務者が「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであること」を立証したときは、その責任について免責されることとなります。
理由
- 現行民法では、債務不履行による責任は、債務者の責めに帰すべき事由がない限り、契約の解除や損害賠償請求を認めていませんが、改正民法では、この免責の要件(帰責事由)について、契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断されることと明確化されました。
実務への影響
- 条文上の表現や立法趣旨は現行民法と異なりますが、実務上の運用は変更されるものではないと言われています。
2.債務の履行に代わる損害賠償の要件
ポイント
- 損害賠償ができる場合の要件として、①履行不能の場合、②確定的な履行拒絶があった場合、③契約が解除された場合、④契約が解除されていなくとも債務不履行による解除の要件を満たした場合、と明確化しました。
理由
- 現行民法には、損害賠償の要件について規定がなく、判例に基づく運用がなされていました。特に、債務不履行の場合に、填補賠償の請求ができるのか、できるとした場合、契約の解除が必要なのか疑義が生じていたため、これを明確化しました。
3.損害賠償の範囲
ポイント
- 特別の事情の予見について、債務者が現実に予見していたかどうかという事実ではなく、債務者が予見すべきであったかどうかという規範的な評価を問題とするものであることを条文上明確にしました。
実務への影響
- 現行民法では、損害賠償の範囲は、相当因果関係理論を採用しているといわれていますが、改正民法でも、予見の主体や予見の基準時などは明らかにされず、現行の損害賠償の範囲に関する解釈問題は解消されず、そのまま引き継がれることとなります。
改正条文
(履行期と履行遅滞)
第412条 (略)
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
第413条の2 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
(損害賠償の範囲)
第416条 (略)
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
(過失相殺)
第418条 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
(賠償額の予定)
第420条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2・3 (略)
(代償請求権)
第422条の2 債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。