債権者代位権についての判例を明文化するとともに
債務者保護を図る方向性へ
1.債権者代位権の要件
ポイント
- 債権者代位権の行使について、裁判上の代位行使の制度を廃止しました。
理由
- 裁判上の代位行使は利用例に乏しかった。そもそも保存行為であれば、裁判所の許可なくとも可能であったため。
実務への影響
- 民事保全手続によって代替できるので、実務のへの影響はほとんどないと考えられる。
2.債務者の取立てその他の処分の権限等
ポイント
- 債権者が代位行使に着手した場合であっても、債務者は自ら取立て等の処分の権限を失いません。また、被代位権利の相手方も、債務者に対して履行することができます。判例では、債務者は、債権者が代位権を着手したことを知った後は、自ら取立て権限を失うことと解されていました。
理由
- 債権者代位権は責任保全の制度に過ぎないのに、債務者が自らの権利を行使できないことに批判があり、債務者保護の要請に応えたため。
実務への影響
- 債権者代位権の行使によって権利が実現しようとする直前に、債務者からの取立て等によって横取りされるリスクが高まるといわれています。仮差押等の民事保全手続を活用する必要があると考えられます。
3.訴えによる債権者代位権の行使
ポイント
- 債権者が債権者代位権を行使し、訴訟を提起したときは、遅滞なく、債務者に対し訴訟告知をしなければなりません。
- 債務者は債権者による訴えの後も、取立て処分等の行為をすることができますし、相手方も債務者に対して履行することができます。
理由
- 債権者が訴えた訴訟の判決の効力は、債務者に及ぶこととなるので、債務者も訴訟に参加できる機会を確保する必要があるため。債務者保護の要請のため。
- 債権者代位権の行使によって権利が実現しようとする直前に、債務者からの取立て等によって横取りされるリスクが高まるといわれています。仮差押等の民事保全手続を活用する必要があると考えられます。
改正条文
第2款 債権者代位権
(債権者代位権の要件)
第423条 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
3 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。
(代位行使の範囲)
第423条の2 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。
(債権者への支払又は引渡し)
第423条の3 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。
(相手方の抗弁)
第423条の4 債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。
(債務者の取立てその他の処分の権限等)
第423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。
(被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知)
第423条の6 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。
(登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権)
第423条の7 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前3条の規定を準用する。