無効及び取消しのときの原状回復義務を明確化
1.法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果
ポイント
- 法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果について、相手方に原状回復義務を明示しました。このときの原状回復の範囲は利益などを含めた全部となります。
- 無償行為に基づくものの場合、行為の当時、無効であることにつき善意であれば、現在利益に限って返還義務を負うこととなります。(制限行為能力者も現在利益の範囲に限定されます。)
理由
- 現行民法では、無効な行為又は取り消された場合について、法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受けたとして、利益が存する限度又は利益に利息を付して変換させる不当利得のルールが適用し処理されていました。(現行民法703条、704条)そこで無効及び取消しについて、原状回復を原則的規定として新設しました。
- 無償行為で相手方が善意のとき、制限行為能力者のときは、返還すべき範囲を現在利益の範囲としました。
2.取り消すことができる行為の追認
ポイント
- 法律行為の追認は、取消しの原因が消滅し、かつその法律行為を取り消すことができることを知っている必要があるとする判例を明文化しました。
- 法定追認についても、取消権者が取消権の存在を知っていることを要するものとしました。
理由
- 明示的な追認とのバランスを考え法定追認についても、取消権者が取消権の存在を知っていることを要するものとし、判例変更(大判大正12年6月11日)と解されている。相手方の信頼保護から取消権者の保護に重きを置く結果となります。
【改正法(新条文)】
(取消しの効果)
第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
(原状回復の義務)
第121条の2 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。
(取り消すことができる行為の追認)
第122条 取り消すことができる行為は、第120条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。
(追認の要件)
第124条 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
2 次に掲げる場合には、前項の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。
一 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。
二 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。
(削る)
(法定追認)
第125条 追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一~六 (略)