民法改正

民法(債権法)改正|代理

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代理権濫用は無権代理行為に
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制限行為能力者が法定代理人のとき、
代理行為について取消が可能となる

1.代理人の行為能力

ポイント

  • 制限行為能力者が法定代理人となっている場合には、例外的にその代理行為について取消しを認めることとなりました。

法定代理人の行為能力

理由

  • 現行民法では、制限行為能力者であっても代理人となることはでき、その者が代理人としてした行為は、制限行為能力者であることを理由に取り消すことはできません。
  • しかし、超高齢化社会が進み、認知症となった夫の成年後見人に、被保佐人である妻がなることも想定されます。そこで制限行為能力者が法定代理人である場合には、例外的に代理行為の取消しを認めることにしました。

2.復代理人を選任した任意代理人の責任

ポイント

  • 現行民法では、任意代理人が復代理人を選任したときに限り、任意代理人の本人に対する責任が軽減されることとなっていましたが、この定めを削除することになりました。

理由

  • 現行民法では、本人の許諾を得たとき又はやむを得ない事由があるときに限り、復代理人の選任を認めているため、そのバランスを考えて、任意代理人の責任を軽減している。
  • しかし、通常の債権者と債務者との関係において、債務者がやむを得ない事由により、債務の履行に第三者の復代理人を用いた場合にあって、復代理人の過失等によって債務の履行が完了していないことに対する責任を、任意代理人である債務者の責任が軽減されるのはおかしいと批判が多くありました。

実務への影響

  • 今後は、復代理人を選任した任意代理人の責任は、債務不履行の一般原則によって利害調整を図ることとなります。

3.代理権の濫用

ポイント

  • 代理権の濫用の「効果」は、民法93条但し書き類推適用による無効でなく、無権代理とみなすことになります。そしてこれにより本人による追認や代理人に対する責任の追及が可能となります。

代理権濫用と無権代理

理由

  • 代理権濫用行為について、現行民法には規定されてなく、93条但し書を類推適用する判例が実務上定着していました。しかし意思表示自体に何ら問題なく、心裡留保の規定を類推適用することに批判がありました。

実務への影響

  • 今後は、本人による追認や無権代理人に対する責任の追及が可能となります。
  • 相手方が代理権濫用について知っていた、または知ることができたときの主張立証責任は、代理権を否定する側の本人にあると考えられます。

4.無権代理人の責任

ポイント

  • 無権代理人への責任の追及は、相手方が無権代理であることにつき善意無過失であることが求められています。しかし相手方に過失がある場合でも、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときには、責任追及ができることを明文化しました。

理由

  • 無権代理人が自己に代理権がないことにつき悪意のときは、無権代理人を保護する必要性が減少するため、相手方の無過失要件を除外しました。

実務への影響

  • 今後、無権代理人の責任を問われた代理人としては、相手方に過失があることを主張立証すれば免責要件としては十分である。一方、過失があることを主張立証された相手方としては、無権代理人の悪意を主張立証すれば、無権代理人の責任が認められることになる。

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【改正法(新条文)】

(保佐人の同意を要する行為等)
第13条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

 一 ~ 九 (略)
 十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

(代理行為の瑕疵)
第101条 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。

(代理人の行為能力)
第102条 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

(復代理人を選任した代理人の責任)
第105条 削除

(法定代理人による復代理人の選任)
第105条 法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

(復代理人の権限等)
第106条 (略)

2 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

(代理権の濫用)
第107条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

(自己契約及び双方代理等)
第108条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

(代理権授与の表示による表見代理等)
第109条 (略)

2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

(権限外の行為の表見代理)
第110条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

(代理権消滅後の表見代理等)
第112条 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

(無権代理人の責任)
第117条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

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